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「カナデ?どうかした?」
先程のリオの言葉に固まっていた俺は、名前を呼ばれて慌てて笑顔を作る。
「え…?い、いや…。あ、のさ…、アルって結婚は…」
「まだされてないよ」
リオの言葉にホッと胸をなで下ろし、そんな自分に首を傾げる。
ーー俺、なんでホッとしてんの?別にアルが結婚してたっていいじゃん。この国の王様なんだし、跡継ぎが必要だろうし…。
あれこれと考え込んでいる俺を見て、リオがプッと吹き出した。
「カナデ、何百面相してるんだよっ。アルファ厶様が独り身なのを心配してるのか?それなら大丈夫。美しい婚約者がいらっしゃるから」
「……え?」
俺は小さく声を出して、リオの背後にある二つ並んだ椅子を、ぼんやりと見つめた。
「ん?カナデ、元気ないね?昨夜ここに着いたばかりだしな。まだ疲れてる?部屋に戻る?」
「い…や、大丈夫…。まだここしか見てないし、もっと色々見てみたい…。リオ、案内してくれる?」
「ホントに?疲れたら言えよ?カナデに何かあったらアルファ厶様に叱られるからな」
俺は無理矢理笑顔を作ると、部屋を出るリオの後に続いた。
ーーさっきも思ったけど、アルに婚約者がいるからって、なんで俺が落ち込んでんの?俺はただの物珍しさで拾われただけなんだし、何でも手に入る王様のアルが、気まぐれに俺で遊んでるだけだろうし…。結婚したら、俺なんてすぐに放り出されるかもなぁ…。そうなる前に、不思議な術は覚えたいな…。
ぼんやりとリオの背中を見つめて歩きながら、そんなことを考える。
ふと、昨夜の風呂場でのことを思い出して、胸が苦しくなり鼻の奥がツンと痛んだ。
広い城の中のたくさんの部屋を見せてもらい、一旦外に出て中庭に入った。中庭も、ヨーロッパによくある庭と似ていて、庭の真ん中に、噴水はないけれど丸く石で囲われた泉があった。
庭のあちらこちらで薔薇に似た花や名前のよくわからない色とりどりの花と緑が溢れている。
俺は花の匂いを嗅いで泉の傍に行き、中を覗いて水に映る自分の顔を見た。
ーー俺、男だもんな。男の俺がアルと並んであの椅子に座るなんて有り得ない…。ふふ、なんてバカなことを考えたんだろ…。アルの傍は居心地がいいけど、いずれアルが結婚するなら、いつまでも甘えてここにいちゃいけない。この国のことをもっと勉強して、何とかなるようになったら出て行こう。
自分の顔を見つめながら、そう決心する。その時、ふいに眼から雫が落ちて、泉の水に映る俺の顔に波紋が広がった。
「あ、ライラ様。散策ですか?」
「こんにちは、リオ。こんな所で何を…。あら?そちらの方は?」
リオに答える可愛らしい声が聞こえてきて、俺は慌てて袖で顔を拭い声がした方を見た。
建物と建物を繋ぐ石畳の道に、アルファ厶よりは薄い赤色の長い髪をした女の人が、不思議そうに俺を見ていた。
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