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心の奥のもやもや
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彼女はニコリと微笑むと、侍女らしい女の人を従えて、俺とリオに近づいてきた。
俺の目の前に来た女の人を、ドキドキとしながら見上げる。
そう…、見上げるんだ。
未だかって、この国で俺よりも小さい奴を見たことがない。
この城に向かう道中、所々で見かけた子供は、さすがに俺よりも小さかった。
だけど大人では、男も女も絶対に俺よりもデカイのだ。
「こんにちは。あなたは誰?」
女の人に話しかけられたけど、考えごとをしていて即座に対応出来なかった俺に変わって、リオが説明をする。
「彼はカナデと言います。アルファ厶様が連れて来られた方です。ご覧の通りの尊い黒髪に美しい容姿、アルファ厶様がとても大切にしておられます。それと、アルファ厶様から失礼のないように接しろとのお達しも出ております。ライラ様も、そのようにお願いします」
「あら!アルファ厶様ったら、珍しいお人形を見つけてはしゃいでらっしゃるのね。あなた、カナデと言うの?確かに美しい黒髪ね。でも、男の子よね?ふふっ、私もカナデと仲良くしたいわ。私はライラと言うの。アルファ厶様の婚約者よ。アルファ厶様はお遊びが過ぎる所があるから、カナデがしっかりと止めてあげてね?」
俺は何も言えずに、とても綺麗に弧を描くライラの赤い唇に見蕩れていた。
一瞬鋭く俺を睨んだライラが、すぐにニコリと微笑んで、中庭を挟んだ向かい側の建物の中へと去って行った。
「カナデ、大丈夫?いきなり話しかけられてびっくりした?」
「え…、あ、ごめん。どうしようっ、俺、ぼんやりしてて、ちゃんと挨拶が出来なかった…っ」
「大丈夫だよ。カナデはちゃんと頭を下げて挨拶してたよ?ふふっ、カナデって天然で可愛いよなぁ」
「え?俺頭下げてた?…ならいいけど…。っていうか、俺は可愛くないし天然でもないっ。しっかりしてる方だ!」
「え~、そうかなぁ。アルファ厶様は見た目だけじゃなく、カナデのそういう所も気に入ってるんだと思うよ?それと…ごめんな。ライラ様、ちょっと意地悪な言い方してたよな…」
俺を手招きして泉の縁に座ったリオの隣に、俺も腰を下ろす。
リオが、眉尻を下げて申し訳なさそうに俺を見た。
「あ~…、珍しいお人形とか言ったこと?」
「そう。あれはカナデに失礼だよな。ごめんな…」
「なんでリオが謝るの。いいよ…別に。だって彼女からしたら、婚約者が他の人を連れて来て大切にしてるように見えてるんだろ?そりゃあ、気分悪いだろ」
「カナデ…。カナデは見た目だけじゃなく心まで綺麗なんだな…。俺はカナデの味方だからな。困ったことがあれば、一番にアルファ厶様に言うのが当然だけど、俺にも頼ってくれよ」
いつの間にか俺の手を握って、リオが真剣な顔で詰め寄る。
俺はリオの気持ちが嬉しくて、笑って頷きながら、「綺麗は余計だよ」と呟いた。
あの後、別の中庭にも案内をしてもらった。
そこは、石畳が敷きつめられただけの広場になっていた。
ただよく見ると、石畳や四方に張り巡らされた塀に、所々傷や穴が開いている。
「リオ、ここは何をする所?」
「ここは、体術の訓練や術の練習をする所だよ」
「へぇ~」
術と聞いて、俺はしゃがんで石畳の傷をあちこち手でなぞる。
さっきの中庭で少し落ち込んでいた気持ちも上がってきて、俺はリオに満面の笑みを見せた。
「俺さ、アルに術を教えてもらう約束をしたんだ。ここには不思議な魔法があるもんなっ。リオも術を使える?」
「使えるよ。というか、へぇ…アルファ厶様が直々に教えるなんて、やっぱり相当気に入られてんなぁ」
「そうなの?そんな事よりも、術見せてくれよ」
「アルファ厶様がそんな事呼ばわり…。カナデってすげぇ…。いいよ、でも少しだけだよ?」
リオはそう言うと、俺から少し離れて弓を射る格好をした。
直後にヒュン!と風を切る音がして、リオの指先から炎の矢が放たれ遠く離れた石の塀に突き当たり、大きな穴を開けた。
「すっ、すごいっ!リオ、かっこいいっ!」
「え、そう?なんか照れるな…。ありがとう、カナデ」
リオに駆け寄りベタ褒めする俺に、リオが照れ笑いを浮かべる。
俺は、ますます早く術を覚えたくて、部屋に戻ったら早速アルファ厶にお願いしようと、一人大きく頷いた。
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