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「カナ、そうじゃない。もっと掌に意識を集中させてみろ」
「う~っ、ちゃんとやってるよ?もっと?」
「そうだ。深く息を吸って長く細く吐き出しながら力を込めてみろ」
「ふぅ~…ふんっ!」
俺は今、石畳が敷き詰められた中庭で、後ろからアルファ厶に両腕を支えてもらいながら、術を発動させるやり方を教えてもらっていた。
アルファ厶は、朝早くからものすごい量の職務をこなし、俺の為に数時間程、時間を作ってくれた。
軽く昼食を済ませた後に、2人でこの中庭に来て、俺の特訓を始めたのだ。
アルファ厶が言う通りに、ゆっくりと呼吸を繰り返し、正面に向けた掌に意識を集中させているのだけど、さっぱり何事も起こらない。
ーーやっぱり俺は、この世界の者ではないから、術なんて使えないのかもしれない…。
早くもそう結論づけて諦めかけていると、アルファ厶が俺の身体に腕を巻きつけて、強く抱きしめてきた。
「カナ…。いきなり最初から上手くいくものではない。今は何の変化も見られないが、微かにおまえの掌から、波動を感じ取っている。繰り返し練習すれば、きっと術は使えるようになる。…おまえはこの世界では尊い存在だ。必ず欲しがる奴らが現れる。当然、俺が傍にいて守ってやるが、そうもいかない時があるかもしれん。出来れば、その時に悪い奴らを追い払う力は持っていて欲しい。カナ、焦らずにやろう。リオだって、使えるようになるまで数日はかかっていたぞ」
「ほんと?じゃあアルは?」
俺は、肩から回されたアルファ厶の腕にそっと触れながら尋ねた。
「俺は…物心つくと同時にすぐに使えた。王族だからな。炎はもう少し大きくなってからだが」
「…すごい。俺もアルファ厶みたいにとまではいかなくても、少しは強くなりたい。今の俺って、何の役にも立たないから…。せめてアルファ厶の役に立てるようになりたい」
「カナ」
俺の頬に唇を寄せて、アルファ厶が何度もキスをする。
「あまり可愛いことを言うな。おまえを閉じ込めて誰にも見せたくなくなる。そうだな…、カナには頑張ってもらって、可愛い俺の騎士になってもらおうか」
「騎士?なんかかっこいい!じゃあさ、俺、剣も使えるようになりたいっ」
「剣か…。危険だからやらせたくはないのだが…、カナは聞きそうにないしな。よし、術は先程の要領で毎日練習すればいい。いずれ、使えるようになるだろう。それに何も魔法だけでなく、物理的な攻撃をしてくる輩もいるからな。カナ、この剣を持ってみろ」
アルファ厶が、腰に差していた2本のうち短い方の剣を抜いて、柄を俺の手に持たせる。
俺は、金と赤の装飾の柄を両手で握りしめると、顔の高さまで持ち上げた。
よく磨かれた刃に俺の顔が映る。
途端に身体がブルリと震えて、剣をそっと下ろした。
いかにもよく切れそうに磨きあげられた剣。これは、人を傷つける為の物。
これを、俺は本当に使えるのだろうか。
剣を強く握り過ぎて白くなった指を見つめて思う。
でも、このような剣で、アルファ厶が傷つけられたら嫌だ。
ましてや、俺を庇って傷つくことなどあってはならない。
だから本当はすごく怖いけど、どうしてもの時にアルファ厶を守るために、アルファ厶の足でまといにならないように、剣を使えるようになりたい。
俺はもう一度剣を持ち上げると、「アル、使い方を教えて」と、真っ直ぐにアルファムの目を見つめた。
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