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旅路
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ぼんやりと考え事をしている俺の頬に、柔らかなものが押し当てられる。
何だ?と顔を横に向けると、すぐ間近にレオナルトの琥珀色の瞳があり、目を細めて俺の唇に軽く口付けた。
咄嗟に俺は手の甲で唇を拭い、身体を仰け反らせて離れようとする。
レオナルトが後ろに反り返った俺の身体を抱き寄せて、クスリと笑って言った。
「そんなに仰け反るとひっくり返ってしまうぞ。カナデの頬や唇は、思った通り滑らかで柔らかい。いつの日か存分に味わわせてもらおう」
「そっ、そんな日は…来ないからっ」
「そうかな。ほら、しっかり掴まってろよ」
「え?わぁっ」
レオナルトが、俺を抱えたまま軽々と黒く大きな馬の背に乗る。
白い毛並みのヴァイスとは正反対の、黒く光る毛並みが美しい馬。
確か…「ラルク?」
「そうだ。俺の愛馬のラルクだ。よく名前を覚えていたな」
「だって…この馬もすごく綺麗だと思ったから。ねぇ、レオナルト。ラルクも空を翔べるの?」
俺の後ろから腰を抱くレオナルトを振り仰いで、少し興奮して尋ねる。
一瞬、俺を抱く腕に力がこもり、レオナルトが美しい微笑を浮かべた。
「カナデ、俺の事はレオンと呼べ。特別に許そう。もちろんラルクは空を翔ぶ。これも、俺の特別な馬だからな。カナデは馬が好きなのか?」
「好き…っていうか、空を翔ぶ馬に乗るのが好き。まだ少し怖いけど、すごくドキドキとして楽しいよ」
「ふっ、そうか。この国で翔ぶと目立ってしまうから、スイ国に入ったら、翔んで王城へ連れて行ってやろう」
「え!ほんと?楽しみ…」
レオナルトが、急に黙り込んで琥珀色の瞳を蕩けさせて俺を見る。
その視線に気恥ずかしくなって、俺は慌てて前を向いた。
「な、なに…?俺の顔に何かついてんの?」
「いや…、カナデの笑った顔を初めて見たと思ってな。目が離せなかった」
「え…、そ、そう…。あ、それと一つ言っとく。俺はレオンと一緒に行くけど、前みたいに俺の気持ちを無視するようなことがあったら、すぐに離れるからな。レオンは王様で偉いから仕方ないのかもしれないけど、俺はこの世界の人間じゃない。だから、この前のような傲慢な態度は、到底受け入れられない。俺の我儘かもしれないけど、これだけは約束して欲しい」
「この前のことは、本当に悪かったと思っている。当然、あのような態度は二度と取らない。カナデは、今や俺のとても大切な存在だからな」
「…わ、わかってくれてるならいいけど…」
俯いた俺のつむじにキスを落とすと、レオナルトがラルクの横腹を軽く蹴って進み出した。
すぐ後ろを栗毛の馬に乗ったナジャがついてくる。
その時、背後から一陣の暖かい風が吹き付けてきた。その風に乗って、『カナ!』というアルファムの声が聞こえた気がした。
俺は目を閉じて静かに息を吐くと、「アル…さよなら」と小さく呟いた。
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