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伸ばした人差し指と中指の先が白く光り、白い玉が男に向かってヒュンと飛んでいく。
狙った通りに男の左腕をかすめ、男が小さく呻いた。
「どうした?」
馬車の反対側で見張っていた男が駆け寄って、血の滲む男の腕を覗き込んでいる。
その隙に俺は、誰もいない反対側のドアから降りて、馬車の後方へと走り出した。
シルヴィオ王の魔法は完全に切れたのか、普通に走れる。
数十メートル先に見える森の中に逃げ込もうと、後ろも振り返らずに必死で足を動かした。
後ろが騒がしいから、気づかれてシルヴィオ王の部下が追いかけて来てるのかもしれない。
でも森までは後数メートル。日中の今でも暗い森だから、中に逃げ込めば隠れる場所もある筈だと思ったその時、バサリと大きな音が聞こえ強い風が吹きつけてきた。
そして、俺の行く手に大きな黒馬が立ち塞がった。
「ふむ…。もう少し眠っているだろうと油断していた。おまえにはやはり、俺の魔法が効きにくいようだ。さて、悪足掻きはここまでだ。王城へ向かうぞ」
「はあっ、はあっ…、いっ、嫌だっ!俺をエン国へ帰せよ!」
肩を上下させて叫ぶ俺を、シルヴィオ王は一瞥すると、黒馬を寄せて俺の身体を簡単に抱え上げた。
俺を前に乗せると、腹に腕を回して動けないようにする。
「ここまで連れて来て帰すわけがないだろう。あまり暴れるとまた眠らせるぞ」
シルヴィオ王が、俺の耳の傍で低く囁く。その声がとても冷たく怖いと感じた俺は、唇を噛みしめて俯いた。
「シルヴィオ様、ご無事ですか?その者、どうやら魔法を使えるみたいですね」
「そうか。城に着いたら暫くは厳重に見張っておいた方がいいか。ふっ、俺はますますおまえに興味が湧いたぞ。なあ、カナデ」
一緒の馬車に乗っていたと思われる若い男が、栗毛の馬に乗ってシルヴィオ王に駆け寄ってきた。
俺は、逃げる為とはいえ人を傷つけたことが気になって、顔を上げて若い男に聞いた。
「あっ、あのっ!俺が魔法を放ったあの人は…?」
「…ただのかすり傷だ。泉の水で濡らせば、すぐに治るだろう」
「そっか…。良かった…」
若い男の答えを聞いて、俺は心底安堵したと共に、後で謝らなければと少し落ち込んだ。
「ははっ!おまえ…カナデ、自分が傷つけた相手をそんなに心配しているようでは、到底俺からは逃げられんぞ。ふっ、変わったヤツだ。これからは毎日じっくりとおまえを観察しよう」
「…観察しなくていい。俺は、別に普通だよ。ただ、人を傷つけたくないだけだ。あんたみたいに…」
「ふむ…。躾も必要みたいだな。これからがとても楽しみだ」
ここにも普通に会話が通じない王様がいる…と溜息を吐いて、再び俯く。
シルヴィオ王が「帰るぞ」と声をかけると、黒馬が軽く走り出して、一気に空へと駆け上がった。
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