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部屋にこもって寝込む日が続いたけど、後十五日ほどしたら産まれるという頃になって、急に吐き気が治まった。
俺が大きく膨らんだお腹を撫でながら、診察に来た医師にそう話すと、医師が「身体が産む準備をしているからです」と言う。
「準備?」
「そうです。子供が入った袋が、下に降りてきたのです。だから胃が圧迫されなくなって、吐き気が治まったのでしょう」
「へえ…。そうなんだ…」
俺は視線を下に向けて、膨らんだお腹を更に優しく撫でる。
ーーいよいよ出産が近づいてきたんだ…。初めてのことだし怖いな。女の人の数倍大変だって聞いたしな。
「大丈夫ですよ」
「え?」
医師にいきなり言われて、驚いて顔を上げる。
初老の医師は、穏やかに微笑んで続ける。
「カナデ様は、妊娠中よく頑張りました。辛い時も、一言も愚痴を言わずに耐えていた。だから出産も大丈夫です。それにどうやら、カナデ様は妊娠に適した身体をしているようです。本来なら、男が妊娠した場合は、皆さんもっと苦しんでますよ。カナデ様は、比較的元気でしたからね。無事に出産されましたら、二人目を考えてもよろしいかと…」
「え?えっ!本当はもっと苦しいの?うそだ…。俺、かなり辛くてしんどかったよ?」
「そうですね。辛そうでしたけど、ずっと寝たきりではないし、散歩もされてましたし。相変わらず華奢ですけど、顔色も良い。私の知る限りでは、他の妊娠した男達は、出産が近づく頃には、目が落ち窪みやせ細って、重病人のようになってましたから。体力も落ちて、そのせいで出産中に亡くなる方もいるのです…」
「そうなんだ…」
俺って、まだ楽な方だったんだ。
そう思うと、何だか元気が出てきた。
吐き気も治まったし、体力をつける為に、今日からいっぱい食べよう。
いっぱい食べて、スポン!と産めるように頑張ろう。
だって、前に医師が、「出産の時、カナデ様が頑張っている時はお子も同じように頑張っていますからね。カナデ様が苦しい時は、同じように苦しいですし。だから少しでも早く産んであげましょうね。その為に体力をつけましょう」と言ってたから。
俺は、診察を受けていたベッドから立ち上がって言った。
「先生、俺、体力をつけたい。なので、ご飯を食べたら散歩してもいいですか?」
「無理をしないと約束して下さるなら」
「はい。無理はしません」
「ならよろしいですよ。あと、必ず誰かについてきてもらうこと。一人では駄目ですよ」
「もちろんです」
「それと、この薬を渡しておきます。寝る前に一粒飲んで下さい。吐き気は治まったけど、まだ目眩はあるでしょう?」
「あー…うん。油断してるとふらふらする…」
「血が足りてないのでしょう。出産までには出来るだけ治した方がいいので、こちらを飲んで下さいね」
「はい」
医師が、俺の掌の上に小さな巾着を置く。
中を覗くと、まるで正露丸のような粒が数十粒入っている。
俺は、正露丸の味を思い出して、すごく苦そうだと眉をひそめた。
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