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取り出した手紙の文字は、弱々しくてもっと下手くそだった。
これはたぶん、母さまが寝込むようになってから、力の入らない手で書いたものなんだろう。
『アル、寝込んでばかりでごめんね。すぐに元気になるから。元気になってアルを手伝うから。もう少し待ってて』
『俺もアルやこの世界の人達みたいに、身体が大きければ良かったなぁ。頑張って鍛えても、全然大きくならないよ…。アルはこのままの俺が可愛くて好きだと言ってくれるけど、大きくなればもっと健康になれると思うんだ』
『ローラントからもらった薬、すごいね!今までの体調不良は何だったんだ?ってくらい、調子がいい!本当に良かった!これからも、アルや炎の国の為に頑張るからね!』
仰向けに寝転んだ俺の耳に、熱い雫が次から次へと流れ込む。
「何言ってんだよ…。なんでそんなに頑張るんだよ…。ただそこにいて、笑ってくれるだけで良かったのに…。カナ…っ」
数回瞬きをして、涙で滲む文字をはっきりとさせる。
ぽろりぽろりと落ちる涙をそのままに、次の手紙を取り出して読み始めた瞬間、ガバリ!と勢いよく身体を起こした。
「え…なにっ?二人でこんなこと話してたの?」
俺は、急いで目をごしごしと拭くと、残りの手紙の束を掴んで椅子に移動した。
その手紙には、いつか俺に王位を譲ったら、父さまと母さまの二人で、森の中にある小さな家で、静かに暮らそうという内容が書かれていた。
「森の中の家…。どこの森だ?」
その問の答えは、次の手紙に書いてあった。
『ねえアル、家を建てるの、早過ぎない?カエンに王位を譲ってからで良かったのに。アルってば、気が早いよ。ふふっ、でも楽しみだね。おじいさんになるまで、ずっと一緒にいようね』
『イグニスの森は、中央の城からも海辺の城からもずいぶんと離れてるよね。飛翔馬でも三日はかかる。すぐにカエンに会いに行けないのは寂しいなぁ。でも周りには森と湖しかなくて、本当に静か。まるで世界にアルと二人だけの気分になるね。俺、一人になるのは嫌だから、アルは俺よりも長生きしてね』
「イグニスの森…?」
聞いたことの無い名前だ。
炎の国に、そんな名前の森があったのか?
俺は、手紙の束をマントに包むと、部屋を飛び出してシアンの元へと向かった。
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