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「カエン様、そろそろよろしいですか?」
「うん。今行く」
俺は、母さまがよく着ていたのと同じ赤い上着と黒いズボンを履いて、臣下一同が待つ大広間に向かった。
俺が部屋に入り玉座の前に立つと、皆が一斉に膝をついた。
「これより、カエン様の即位の儀式を始めます」
新たに宰相となったシアンの声に、皆が今度は立ち上がる。
俺は、少しだけ後ろを向いて、俺を見守ってくれている父さまに頷いた。
母さまの埋葬、各国への知らせの後に、水の国と日の国の王がすぐに駆けつけて、母さまの死をひどく悲しんだ。
すぐに父さまと三人で、数人の護衛と共に海辺の城に向かい、数日間母さまを偲んで帰って行った。
水の国のレオナルト王も日の国のサッシャ王も、母さまの形見の品が欲しいと願った為に、父さまは、母さまがいつも腕に付けていた腕輪の石を、それぞれに渡した。
母さまを溺愛している父さまにしては、ずいぶんと気前がいいなあと思っていると、「俺にはカナの髪の毛があるからな。これはカナの分身だから、誰にも渡さない」と笑って言った。
慌ただしく行われた母さまの埋葬からしばらく経って、いろいろと落ち着いた頃に、ようやく俺の即位の段取りがついた。
俺の即位の儀式が終わると、父さまは海辺の城へ行ってしまう。母さまの思い出と共に、静かに暮らすのだそう。
そして年に数日は、イグニスの森の中の小さな家に行き、母さまとするはずだった慎ましやかな暮らしを楽しむのだと話していた。
あれほど母さまに執着していた父さまだけど、母さまの埋葬が終わった頃から、ようやく母さまの死を受け入れて、気持ちが落ち着いたみたいだ。
食事もきちんと摂るようになり、夜も眠れるようになったのか、顔色も良くなってきた。
でも時おり、「昨夜はカナが夢に出て来てくれなかった」と、少し瞼を腫らして起きてくる日もあった。
でも、以前のようにとまではいかなくても元気になった父さまを見て、俺は少しだけ肩の力を抜いた。
母さまを失って、父さまが抜け殻のようになってしまったのを見て、俺がしっかりしなくてはと頑張っていたから。強引に頑張ろうとしていたから。ほんの少しつついたら、壊れてしまうくらいに気持ちが張り詰めていたから。
やっと力を抜くことが出来て、気持ちに余裕が出来た。
でも王になるということは、もっとすごい重圧にも耐えなければならない。
以前に母さまと出会う前の父さまは、かなりの暴君だったとリオに聞いたことがある。
俺も暴君とまではいかなくても、強い王になりたい。
そう決意をして、即位までの日々を、父さまに教えを乞い、魔法や剣の練習に励んで過ごした。
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