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* Scent.2 *
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つくった拳で胸を押し退け、立花はドア横の空いたスペースに身体を傾けた。
血の気が引いていくのが自分でも分かる。
奥歯をぎり、と噛み締めて吐き気を堪えている間にも、不安定に揺られる車内でバランスを崩してしまう。
「次で一緒に降りるよ」
男の声に次いで、駅員のアナウンスが停車駅の名前を告げる。立花の職場である大学前だ。
扉が開くと、立花は男に支えられて見慣れた駅のホームに足を着く。
この時期はいくら着込んでも突き刺すみたいな風が痛いから嫌いなのに。
心地の悪い汗は歩くうちに乾いていき、体調も回復してきた。
「あの、もう大丈夫だから。手、離して……」
そう訴えると、身体をしっかりと支えていた腕は離れていく。
「病院へは付き添わなくても?」
「……そこまでしてもらわなくても、いいです。これから仕事もあるので。ありがとうございました」
疼く身体を叱咤しながらもなるべくアルファの顔を見ないようにして、立花は礼を言った。
相手の気を害さないように、最少の言葉だけを残して立ち去ろうとする。
待って、と引き留める声とともに手首を掴まれて、ついに振り返ってしまった。
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