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* Scent.3 *
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大人達の黒い事情が飛び交い、立花は小さく縮こまる。
隣にいた叔母に手の甲をつねられて、立花は教え込まれた台詞を絞り出すような音量で発した。
「……施設に、行きたいです」
どよめいた後に「それなら仕方ない」と誰かが言う。
──違う。本当は……本当は。
「仕事が押してしまって、すまないね。先に始めてもらってもよかったのだが……おや」
遅れてやって来た男に一同は口を噤む。
両親よりも少し大人びた風貌の男が、立花に興味を示している。
雪で濡らしてしまった背広を付き人に預けると、立花の斜め隣へと腰を下ろした。
──この人だって、どうせ僕をいらないって言うんだ……。
「……驚いた。とても綺麗な子だ。年はいくつだ?」
「12歳、です」
「ほう。うちの息子と同じか」
大人は息をするように平気で嘘を言う。
親近感を湧かせるような言葉にはいちいち反応しないし、媚を売らないつもりだった。
くしゃりと目尻に皺をつくる笑い方に、今まで俯きがちだった立花が初めて顔を上げる。
値踏みするような視線は正直言って心地悪かったが、立花の存在を否定することのない、敵意を感じさせない瞳に取り込まれるように我を忘れて見入っていた。
「瑛智さん──その子は」
「オメガの子だろう。事情はよく聞いているよ。もしかして、まだ行き先が決まっていないのか?」
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