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* Scent.6 *
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その声を忘れるはずがない。知らないトーンで話す声が、静かな部屋の中で、立花の耳にも届く。
ただ、立花以上に動揺しているのは、彼と直接話をしている瑛智のほうだ。
「何故、この番号を知っている……」
『そちらに着いてから全てお話しします』
通話が切れると、瑛智は感情に任せて立花の髪を掴み、檻の外へ引っ張り出した。
「涼風と言っていたな……お前が必死に庇っていたアルファだね? 自由にさせていた私が間違いだった。やはり外で男をつくっていたのだな」
長い時間監禁され弱りきった立花は、今さら抵抗する気力すら残っていない。
とっくに諦めたはずなのに、懐かしい声と涼風という名前を聞いて、消えかけていた心の灯が輝く。
胸の内が温かくなる。また生きようと薄い皮膚と骨の下で、薄弱だった心臓の鼓動が強く叫んでいる。
涼風がいいと言ってくれるのなら、まだ生きていたい。
生きる理由を全て涼風に委ねる訳ではないけれど、涼風のいる世界で自分も必死に生きてみたい。
× × ×
これほど落ち着かず焦りを微塵も隠さない瑛智を目にするのは、包海家に来て以来初めてのことだった。
冷静で何事も動じない、毅然とした態度で接する瑛智は、典型的な思想を持つアルファの1人だ。
瑛智の業務については、立花は何1つ知らされていなかった。
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