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* Scent.7 *
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「いや、大丈夫。……あれ。朝出るときにマフラーしてなかった?」
「……あっ! ロッカーに忘れてきたのかも……。どうしよう」
取りに帰ったとしても往復で5分もかからない距離だ。
けれど、立花は「明日でいいです」と言って歩き出した。
久し振りの2人の時間だ。数分すら離れるのも惜しい。
裏門の前は大学関係者専用の駐車場があり、周辺は建物も少ないため、冷たい風がびゅうびゅうと容赦なく身体に突き刺さる。
車線の脇を歩きながら、立花はぐずぐずと赤い鼻を鳴らしていた。
もう日が傾き始めている。午後からの予想気温は、1桁だとニュースで聞いたような気がする。
「……え、あの、涼風さん?」
「寒いだろう。俺のなら使っていいから」
グレー単色のマフラーを、立花の首にぐるぐると巻いた。
何周かした後で、風に持っていかれないように結び目をつくる。
「僕が使ったら、涼風さんが寒くなりますよ」
「平気。ちょっと暑いくらいだった」
笑った涼風の周りの空気が、もやもやと白んでいる。
立花は鼻先を分厚いマフラーの中に埋めた。
──涼風さんの、匂いがする。
ちょっとはしたないけれど、涼風の私物に染みついた、大好きな匂いを深くまで嗅いだ。
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