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灰色の瞳のとら猫のお話26
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「つきました」
目を閉じて、意識を少しだけ手放していた間に、車は目的地へと到着した。
「…うん」
龍崎に促されて、車の外へと出る。
「うわっ」
トラはお寺のような仰々しい門を見上げた。門は石の階段の上にあり、龍の彫刻が施されていて、こちらを睨んでいた。
「どうぞ」
龍崎は、門の中へトラを促した。
平らな石畳が、まっすぐ屋敷の扉まで引かれていた。その周りには、白い玉砂利の引かれていた。日の光が白色を反射して目が眩んだ。
「あまり、緊張しないでくださいね」
「…」
龍崎は、勝手知ったる場所だろうが、トラは初めて訪れる場所だった。龍崎の服の裾を不安と緊張から、思わず掴んでしまう。辺りをきょろきょろと見回し、警戒する。
龍崎はそんなトラに頬が緩みそうになるが、一層引き締めなければならない理由があった。
「龍崎真琴、ただ今帰りました」
龍崎は、そう言いながら靴を脱いで、玄関を上がっていった。
目の前には、屏風の龍が口を開けて迫力のある目でこちらを睨んでいた。思わず、トラも睨み返していると、龍崎と距離が開き、慌てて靴を脱いで龍崎を追った。
「失礼いたします」
龍崎が、少し緊張した表情を浮かべて襖をあけると、そこにいたのは、屈強な大男達を従える、まるで仙人のような老人が座っていた。
「おぉ、真琴」
渋い着流しをゆるくきた、白髪の老人で暢気に龍崎に手を挙げて挨拶をした。
「おやっさん…龍崎真琴。ただいま、帰りました」
龍崎は、頭を深々と老人に下げた。龍崎の後ろにトラ、トラの後ろに龍崎の部下の江島が続いていたが、2人とも頭を下げた。
「ほっほ!ご苦労!」
暢気なジジイくらいにしかトラは思わなかったが、龍崎と江島の表情から、この爺がただ者ではない事はトラにも分かった。トラは頭も察しもよくない方だが、そんなトラにも分かるほどあからさまな空気が漂っていた。
「そこのが、小猫か?」
爺は、トラを指差した。
「はい…マタタビのトラを連れて参りました」
龍崎の言葉に、辺りがざわついた。爺は、手を招いて龍崎を側に来るようにと仕草をした。龍崎が、部屋の中へ入ったので、トラも続こうとしたが、畳の部屋の中へ入ろうとして、空気感が違う事に気づいて一瞬躊躇った。
まるで、時代劇のように、爺は中央の一段高くなっている場所へと座り、周りには、舎弟と思われる屈強な男達が座っているのだ。睨んでいるように見えて、実は睨んではいない… しかし、穏やかな表情でもないし、歓迎もされていない。
ビリビリとした空気だった。
そんな男達の視線の先にいた龍崎は、堂々としていた。
「ほら、行けよ」
トラは、後ろの江島に小声で急かされて、部屋に入る。
…ああ、顔がにやけそう。
こんな空気感が、久々だった。触発されて、妙な殺気を発したら、敏感に気づかれて、喉仏を切り裂かれそうだ。まるで、大きな龍がこちらを睨んでいて、辺りを支配しているかのような緊迫感。一瞬の気のゆるみも許されない状況で、トラは自らの纏うオーラを小さくするようなイメージを持ちながら、龍崎とトラは、爺の前に正座をした。
「小猫よ。よく見せてみ」
トラは、龍崎をちらりと見た。そして、爺を見上げる。
「ほほぉ…立派な童じゃな」
弛んだ瞼から鋭い眼光が覗く。その瞳は、龍崎の瞳よりもずっと力が宿っていた。一見、飄々としているようだが、その瞳に宿した光りは、嵐が来る前の雷雲のような激しさがあった。
ああ…これが、ヤクザの会長なんだ と、トラもじっと見つめた。先ほどまで、落ち着かないトラだったが、今はそれもない。
「ヤクザの会長って初めて見たっ!」
トラは、正直にそう言った。
「ほっほ!そうか!小僧っ!」
「…」
トラは、江島よりも堂々としていて、それでいて無垢で無知だ。
「龍崎より、もっと怖ぇのかと思った!」
龍崎は、何も反応せずただトラの言葉を聞いていた。その隣の江島は気が気じゃない様子で、蝋燭のようにだらだらと汗を流していた。
「ほっほっほ!正直な小僧だなっ!」
会長が一言『殺せ』と命じれば、一斉にこの部屋にいる何十人という男達がトラにつかみかかってくるような状況だった。
「よかった…俺が思ってた会長じゃなくて」
「ほほう…どんなだ?」
トラが描いていた組長像は、悪代官のようなどうしようもないヤツだと思った。それをトラなりに説明すると、組長は『ほうほう…』と頷いた後笑っていた。
「そうか!そうか!良いなっ!童は元気が一番じゃ!」
「で、何で俺ってココに呼ばれたの?」
無知なトラは、会長にため口だった。江島は、生きた心地がしていない様子で、全身に冷や汗を書いていた。
「もしかして、挨拶ってやつ?」
よくわからないが、ヤクザの世界にはよくある話だ。
「ほっほ!小猫はそうでなくちゃならんな!…これ龍崎」
「はい」
会長は、龍崎にセンスを投げつけたが、それをトラが掴んだ。
「??」
龍崎は避けもせず、ただその扇子を顔面で受けるつもりだっただろうがトラが掴み、組長をじっと見た。
「ほほう…」
まだ、飄々とした表情を浮かべる会長の元へとトラは扇子を持っていく。目線を合わせたり、膝を折ったりはしていない。トラは、まっすぐ会長を見下ろす。
「これって、投げるもんじゃねぇだろ。クソジジイ」
すると、会長は金色の歯を剥き出しにして、にっこりと微笑んだ。
「元気じゃのう」
すると龍崎は頭を下げた。江島は、目を見開いていた。
「恐れながら」
龍崎の静かな言葉の後、まるでそれが合図だったかのように後ろに座っていた男達が一斉に立ち上がってトラの方へと向かっていった。
「病み上がりなんだけどなぁ」
トラが舌打ちをする。十数人の男達は、トラの一斉に襲いかかる。
「…」
龍崎と江島は、この想定の事態を冷静に見ていた。邪魔になるので、素早く端に避けて正座をしている。
男達は咆哮しながら、太い腕を振り回していた。腕に覚えのあるヤクザが、一斉にトラめがけて猛威をふるっているのだ。それはさながら、雷雲から降り注ぐ雷のようだった。しかし、トラは、武器を持つどころか、余裕の表情さえ浮かべて男達の間を縫うように避けていた。時折、打撃を加えていたが、一人また一人と戦線を脱落するものが増え、5分後には、半分になっていて、7分で全員が畳の上に膝をつき転がっていた。
「…」
立っているのは、トラだけだった。
「ほっほぉ…やりよる」
会長は拍手をした。十数人が、膝をついていたが、流血している人も気絶している人も誰もいなかった。ただ、おもいきり股間を蹴り上げたので、苦痛に悶絶していたのだ。
「さすが猛猫よ…龍崎」
「はい」
「許す」
一言だった。
「有り難う存じます」
龍崎は頭を下げた。
「行って良し」
「はい。失礼します」
龍崎と江島と、トラは会長から退出の許可をもらう。
「ジジイ。じゃーな」
トラは、部屋を出る時にそう言った。
「ほっほ、今度茶菓子でも容易しといてやるから、また来い。ドラ猫。」
会長にそんな事を言ったので、流石に限界の江島に小突かれた。
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