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灰色の瞳のとら猫のお話28
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「…どうして、そこまで俺のこと好きなの?」
優秀なヤクザが、どんな手段を使っても手に入れようと思う程の人格者でも人殺しの技術が高いあるわけでは無い。
ミケに比べると経験値も浅く、ニャロメに比べると情報の選択が下手糞で、ブチに比べると危険回避能力も低い。
一般的な殺し屋としての技術はあるだろうが組織では、下から数えた方が早い。もし、組織で活躍するような人物を選ぶなら、ミケやニャロメを選ぶべきである。ただ、金銭的な面で、問題があると言われたら、ボスを揺すればそこそこは、譲歩してもらえるとは思う。龍崎は、そういうのも長けているだろうから…
「言ったでしょう」
龍崎は、トラの左手に自らの手を重ねた。
「トラくんになら殺されても良いと思ったって…」
「それは…」
俺が、しくじったから…殺し屋としては最低だ。
自信が無いのか、不安なのか…トラの表情は浮かない。
「江島」
龍崎は、運転をしている江島に声をかける。トラにかけた声とは、全くの別人のような低い声だ。
「今日の予定を全て二時間ずらせ」
「かしこまりました」
江島は、繁華街の中にある駐車場へと車を止めた。
「トラくん…こちらへ」
ドアから出た龍崎に連れられて、トラはついて行った。派手なネオンのアーチをくぐって、繁華街へ入る。お昼より前なので、比較的人の往来は少ない。ただ、相変わらず街は汚く、ゴミダメのようだった。龍崎は真新しそうなラブホテルに入った。一見すると、普通のホテルのようにも見える、とても綺麗な外装だった。トラは、龍崎について行き、ホテルの一室まで連れてこられる。促されるまま、椅子に座らされた。
「…」
トラは、龍崎を見つめた。
龍崎は椅子に座ったトラの前に膝をついた。
「江島の前で可愛いトラくんを見られたくなかったので、こちらに案内させて頂きました」
龍崎の説明に、トラは頷いた。
「俺は、龍崎のことが好きだよ」
素直に、自分の気持ちを伝えるトラ。
龍崎を不安そうに見つめる瞳は、何者にも例えようの無い美しい宝石だ。角度や、感情や、光りの具合によって青みを帯びたり、黄色みを帯びたり、赤みを帯びたり…様々な輝きが現れる。
「有り難うございます」
龍崎は素直に御礼を言った。
「でも、龍崎が思うほど俺は組に徳無いよ」
確かに、人は殺せるけど…それだけ。トラには、龍崎がそこまで自分に入れ込む理由が分からなかった。ただ、殺されてもいいと思った。だから、側においておきたいほど愛している。龍崎の中での方程式が成立しているのだろうが、トラの中では成立していない。
「トラくん」
じっと龍崎は下からトラを見上げ、左手の薬指に唇を寄せながらいう。部下には、こんな姿を見せる事は出来ない。まず、組長が自分よりもだいぶ年下の小僧に、膝をつく事はあり得ない。こんな姿を見られたら、権力が失墜しかねない大事だ。
「ヤクザとして、トラくんを口説いているなら、もっと別のやり方をします。これは、個人的な感情で、トラくんのことを口説いているんです」
トラは、上目遣いに龍崎を見つめた。
「もしトラくんを組として口説いているのであれば、指輪なんて渡すと思いますか?」
それに魚里との婚約を破棄したり、四十万円でトラを買ったりするだろうか…
そもそも、四十万円でトラを買う必要は無かったのだ。あれは、ただの口実にすぎない。龍崎自身が「ハゲワシに狙われているから」というのは建前で、本当はトラを危険に晒したくなかった龍崎の利己的な理由があった。
ハゲワシから守られていたのは、龍崎ではなくトラであった。
「…」
トラは、首を横に振った。
「わかった」
トラは、頷いて龍崎に言った。
「ご理解いただけたようで良かったです」
龍崎は微笑んで、頷いた。
「では、参りましょうか」
龍崎は、チュッと音を立てて左手にキスをした。トラには、いつも紳士な龍崎は、一瞬も隙を見せない。理由も無い事をしないような人だ。頭もいい。
「…」
ただ、トラの不安を聞くだけに、仕事を二時間もずらした。なによりも大切にされている証拠だといえないだろうか。
「どうかしましたか?」
促されて、立ち上がると思ったトラが、そのまま立ち上がらずに、椅子に座ったまま、まだ難しい表情をしていた。龍崎は、床に膝をついて、呆れもせずに話を促した。
「…時間ってまだあるんだろ?」
「??」
龍崎は、本当にただトラの話を聞くためだけに、一室を借りたようだ。
「江島に二時間予定をずらすように言ってた」
「はい…」
龍崎は、トラの言葉の意味がまだ分からない様子だった。トラは、至極真剣な表情でいう。
「龍崎とエッチしたい」
「えっ…」
奥深い色で揺らめく灰色の瞳が、美しかった。
「…だって、俺龍崎の事好きだし」
ラブホテルだし。ずっと入院してたし。相部屋だったし。キスもしてないし。
龍崎に触ってないし…
「トラくん…」
龍崎は、頭を金属バットで殴られたような気がして、まだ星が頭の周りを飛んでいるかのようで、理解できていない。それでも、冷静さを失ってはいけないと、なんとか理性を保っていた。
「こっち向いてください」
低い声の視線を龍崎にあわせる。
「…それって、寂しかったってことで良いですか?」
トラは、頷く。
「だって…龍崎見舞いにきてくれなかったし…」
確かに。ここのところ、多忙だった。龍崎が、利己的に行動したことで組内がざわつき、更に抗争に発展した鎮圧に、かなりの人員と労力をさいていた。見舞いには行きたかったが、どうしても都合のつかないことが多かった。だから、毎日何かしらを組員に運ばせた。トラの欲しいものに、金は惜しまなかった。
「もう、お見舞いのメロンも、缶詰のモモも、花束も…なんもいらない。ただ、今は龍崎とエッチしたい」
トラは、龍崎が欲しいのだ。
ああ…もう…
龍崎は、トラを抱きしめた。
「申し訳ありませんでした」
こんなに頭が良いのに、トラの事になると見境が無くなる。
「うん」
トラは頷いた。
好きだって言うなら、愛してみせてよ。
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