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恐怖
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「だっ、誰だっ!」
「あ…っ、はぁ…はぁっ…」
旭が僕を庇うように抱きしめ、男を睨みつける。
僕は、昼間の光景を思い出してしまい、胸を抑えて荒い呼吸を繰り返した。
「…おまえには関係ない。そこをどけ」
ジャリ…とガラスを踏んで、男が一歩こちらに近づく。
「はあ?どくわけねーだろうがっ。警察呼ぶぞ!」
「好きに呼ぶといい。すぐに終わらせる」
はっはっと荒く息を吐く僕に、旭がそっと耳打ちをする。
「乃亜…、俺があいつを止めてる間に下へ逃げろ…。父さんと外に出て警察を呼ぶんだ。大丈夫。俺が長年空手をやってるのは知ってるだろ?」
「…で、でもっ!刀…っ、持ってるっ」
「ああいう不審者への対処法も知ってる。いいな?動けるな?」
何とか頷いた僕の額に唇を押し当てると、旭はゆっくりとベッドから降りた。
僕も少しずつ移動して、ドアを見る。
「おまえは関係ないと言っただろう。俺が退治するべき相手は、そっちの小さい方だ」
男の言葉に、ベッドから降りようとしていた僕の動きが止まる。
「……から?僕が昼間の…、あんたが人を斬った現場を見たから…っ?」
振り向きざまに叫んだ僕を、旭が驚いた顔で、男が無表情に見た。
「えっ?人を斬ったって…」
「人ではない。あれは、人間に害を成す悪鬼だ。そしておまえもその一人」
「…は?悪鬼ってなに?僕は人間やしっ」
「なんだ?おまえ。惚けているのか本当に知らないのか。俺は悪鬼を見分けることが出来る。悪鬼は二種類いる。使う側と使われる側。後者はウヨウヨいるが雑魚に過ぎない。問題は使う側。数も少なく滅多に見かけない。が、運良く一匹を見つけて追い詰め始末した。そこへ、おまえが現れたのだ。おまえは、昼間に退治した奴よりも更に格が高いみたいだな。甘い匂いが強く香る」
男が話してる内容が全く分からない。
ーー悪鬼って何?鬼?こいつは、僕が鬼だと言ってるん?それに甘い匂いって…。血の匂いのこと?それとも僕の身体から匂うんやろか…。
何が何だかわからなくなって俯いた僕に向かって、男が刀を突きつける。
「おまえ、一緒にいるこいつを喰らってないのか。それとも、これから喰らおうと思っていたのか。まあ今更どうでもいいが。俺は、おまえのような悪鬼を根絶やしにしなければならない。覚悟しろ」
男が、足を踏み出し刀を振り上げた瞬間、旭が僕の前ち立ち塞がった。
「やめろっ!!」
「退かないとおまえも共に斬るぞ」
「斬れよっ。こいつには指一本触れさせない!」
「ちっ…、面倒だ」
男が呟いて刀を振り下ろし、鈍い音と共に旭の身体が崩れ落ちた。
「あ…あさ、ひ?旭…旭…っ!!」
「これで邪魔をする者はいない。次はおまえだ」
旭が真っ青な顔で倒れている。
ーーなんだ?何をした?僕の、僕の大切な旭を…っ!
ドクンドクンと心臓が激しく脈打ち、身体が熱い。先程感じた熱さなど比じゃなく、燃えるように熱い。
自分の身体を強く抱きしめて叫びたくなる衝動に堪えていると、腕にチクリと痛みを感じて見た。
僕の両手の爪が伸びて尖り、腕の肉を突き刺して血が流れている。
ーーああ、これは…むせかえる甘い花の匂い。
僕は爪についた血をペロリと舐めると、刀を振り上げた男に向かって飛びかかった。
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