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覚醒
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「乃亜、気分はどうだ?」
ベッドに仰向けで寝ている僕を覗き込んで、おじさんが聞いてくる。
僕は少しだけ笑って、「大丈夫だよ」と答えた。
あの変な男が襲撃して来た日から、一週間が過ぎた。
男が窓から出て行ったすぐ後に目を覚ました旭が、『警察に通報しよう』と騒ぐのを、おじさんが何とか宥めて止めたそうだ。
おじさんの昔の患者の家族が、逆恨みをしておじさんの身内を襲って来たということにしたらしい。
僕だけを狙ったと話してしまうと、僕があいつの言う『悪鬼』だと旭にバレてしまう。
きっとそれは望まないだろうと汲んでくれたおじさんが、上手く旭に話してくれたんだ。
でもあの日以降、僕は興奮すると目の色が赤く変わるようになってしまった。
襲撃の翌日、お風呂に入っている時に、たまたまあの男の言葉を思い出してしまい、怒りと恐怖で身体が熱くなった自分を鏡で見て、赤く光る目に気づいた。
おじさんから僕は吸血鬼だと聞いたけど、まだ疑心暗鬼だった。でもさすがに、自分の正体を信じなくてはならない瞬間でもあった。
旭に内緒でおじさんの病院に行って相談すると、すぐに黒いコンタクトレンズを用意してくれた。
そして以前よりも強い薬を点滴で身体に入れた。
「昨日のことが引き金になって、乃亜は鬼として覚醒してしまったのだろう。赤い目がその証だ。でも、他の吸血鬼のように吸血欲がない。それは、今までの薬が効いているからだと思う。今日から少し薬を強めにする。それに、今までのように三ヶ月に一度ではなく、一ヶ月に一度は来るように。目の色が変わったからには、それなりの対処が必要になる。…いいか?」
「うん、わかった。一ヶ月ごとにちゃんと来るから、おじさん、僕が鬼にならないようにしてな」
「…乃亜はいい子だな。旭はおまえの事を知ったからと言って、態度の変わる子ではないと思うが…。今は知られたくないのだろう?」
「うん…。いつかは話すから、もう少し黙っててくれへん?」
「いいが…。昨日のことで、旭はますます乃亜に対して過保護になってる気がするぞ」
「うん…、あんな事があったから、仕方ないよ…」
おじさんの言う通り、襲撃の後から、旭は前にも増して僕の傍を離れなくなった。
大学の行き帰りは必ず一緒。家の中でも僕の傍にピタリとくっついている。
お風呂の中までついてこようとしたから、さすがにそれは全力で止めた。そうしたら、僕が風呂場から出るまで、ドアの前から動かなくなった。
そして自分が入ってる間も、僕にドアの前から動かないようにと言う。
初めは、蒸し暑い洗面所で待つのが嫌で、こっそりとエアコンの効いたリビングに戻った。すると、すぐにびしょ濡れのまま風呂場から出て来て、「俺の目の届く所にいてくれ!」と泣きそうな顔で懇願された。
結局、濡れた床の後処理が大変なこともあり、僕は渋々洗面所へと戻る羽目になった。
でも、戸惑いはしたけど旭の傍にいられることは嬉しくて、僕は毎日幸せだった。
旭に気づかれないようにコンタクトレンズをつけるのが大変だったけど、とても幸せだった。
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