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「だ、誰?」
「俺は月島 倭(つきしま やまと)。倭って呼んでいいよ、乃亜くん」
「なんで僕の名前っ…」
「ん?だって、ずっと見てたから知ってるよ。俺、君と仲良くなりたいと思ってたんだ」
なんで?とまるで不審者を見るような目で、男…月島を見る。
「ひどいなぁ。そんな目で見ないで欲しいよ。だってさ、俺と君は仲間なんだよ?こんなに大勢の人がいる中で、数少ない仲間を見つけたら嬉しくて仲良くしたい、って思うじゃん?」
「…仲間?仲間って何やねん」
「ん?あれ?最近匂いが変わったから話しかけたんだけど…。知らないの?もしくはとぼけてるのか…」
「あのさ、あんたが僕と仲良くなりたくても、僕は仲良くなりたくない。あんたとは、はっきり言って合わへん。もうすぐ連れが戻って来るからどこか行ってくれへん?」
月島の目が、スっと細められる。その目が、一瞬赤く光ったように見えて、ドキリとする。
「わかった。今日は帰るよ。また今度ゆっくり話そう。ふふ、そのうち君の関西弁で罵られてみたいねぇ…。ゾクゾクするよ」
最後、意味のわからないことを呟きながら、月島が席を立ち手を振って離れて行った。
…あいつ、仲間って言った…。それに目が赤く光った?もしかして…。
そこまで考えて、勢いよく首を左右に振る。
違う。僕は人間だ。もしあいつが吸血鬼だったとしても、僕には関係ない。だから、もう二度と、僕には近寄らないで欲しい。
皿に一口残ったケーキを見つめて、今頃になって早鐘を打ち始めた胸を手で押さえる。
その時、いきなり肩に手を置かれて、ドクンと心臓が跳ねた。
「乃亜?どうした?気分が悪いのか?」
横を向くと、旭が心配そうに覗き込んでいる。
僕は、無理に笑顔を作って言う。
「大丈夫。旭が遅いから待ちくたびれたんや」
「そう?だって、ケーキも残してるからさ」
そう言いながら、旭が僕の額に手を当てる。
「ん~、熱はないようだな。ごめんな、俺に付き合わせて。でも、家に乃亜を一人置いて行くのは嫌だったし、俺が離れたくなかったから…」
「大丈夫やって。僕も旭の傍を離れたくなかったし、ここのケーキを食べたかったからええねん。な、旭。このシフォンケーキめっちゃ美味しかったで。旭も食べてみてよ」
「乃亜、本当に大丈夫か?」
「うん。もう少しここで旭とゆっくりしたい」
「そっか。じゃあ俺もそのケーキ食べようかな」
旭が僕の頭を撫でて、ケーキを注文しに席を離れる。
旭の背中を見つめていると、ふと視線を感じて振り向いた。
ここからかなり離れた建物の陰から、月島が、僕をジッと見ていた。
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