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「月島っ!てめぇ…っ、乃亜を離せっ」
「うるさいなぁ。主筋になる乃亜くんに命令されたら喜んで聞くけど、おまえに言われると腹が立つ。次、そんな口きいたら殺すよ?」
「は?ふざけんなよっ…」
僕は、旭に黙るように目で合図をする。
痛みで額から流れ落ちた汗が目に入って、旭の姿がぼやける。
「ああ…、なんて良い香りだ。乃亜くんの血の匂いを嗅ぐと、まるで美酒に酔ったように幸せな気分になる…」
「…なら、僕の血を飲め…よ…」
僕の後ろに立つ月島の、うっとりとした声に答える。
「それは、絶対にしてはダメなんだよ。こんなにも美味しそうな匂いがしてるのに、残念」
「なんで…?」
「…乃亜くんは、本当に何にも知らないんだねぇ…」
月島が、うずくまる僕の隣にしゃがみ込み、顔を覗きんできた。
もう隠す気は無いのか、瞳を赤く輝かせ、口端からは犬歯を覗かせている。
「乃亜くんの血はね、俺達にとっては劇薬なんだよ。どんなに甘く美味しそうな匂いでも、絶対に口にしてはいけない。一滴飲むだけで干からびて死んでしまう」
「…だから…、僕を殺そうとしてるのか…」
「え?違うよ?乃亜くんを傷つけたのは…」
「何をごちゃごちゃ言ってる!それ以上乃亜に何かしたら許さねぇぞっ!」
旭が、身体を押さえつけていた三人の男を投げ飛ばしながら怒声を上げる。
最初に投げ飛ばされた男の長く尖った爪が旭の頬をかすめ、じわりと血が滲み出た。
その赤い色を見た瞬間、僕の心臓が大きく跳ね、身体中がぎしぎしと音を立てる。
ひどく喉が渇いて、早く喉を潤したくて、自分の意思とは関係なく旭に向かって手を伸ばした。
「…あ…旭の…血…」
「乃亜?」
旭が僕に駆け寄り、伸ばした僕の手を掴む。
「大丈夫?すぐに父さんの所に…」
僕は旭に抱きつくと、旭の血がついた頬を、べロリと舐めた。
「あ…あ…っ!がああぁっっ!!」
ほんの微かな血を唾液と共に飲み込んだ瞬間、身体中が熱く痺れて、僕は絶叫した。
「乃亜っ!どうしたんだっ?大丈夫かっ!?」
「あぁ…っ、あつ…い…」
喉が焼け付くように熱い。
背中の傷もチリチリと熱くて痛い。
心配する旭の声が聞こえない。
旭の表情も目に入らない。
ただ、一つの欲求だけが湧き上がってくる。
僕は、旭の肩にしがみつくと、大きく口を開けて、目の前にある首に噛みついた。
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