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月島が叫ぶと同時に、僕の胸に激痛が走る。
ぼやける瞳で胸を見ると、黒い鋼のような爪が、背中から貫通して飛び出ていた。
「ああ…っ」
「乃亜くんの血は、本当にいい香りだ。飲めないのがとても残念だよ。バイバイ、乃亜くん。恨むなら弱い自分を恨ん……がはっ…!」
月島の言葉が途切れたと思ったら、僕の胸から爪が引き抜かれて大きな物が倒れる音がした。
振り向いて確認したくても、もうそんな力もない。
僕は、前のめりに倒れると、何とか腕を伸ばして旭の手を握った。
「…おまえ、白波瀬と言ったか。ひどい姿だな。俺の手で狩れなくて残念だ」
「…僕は、弱いから…狩る対象にも…なら、へん…。なあ、お願い…。旭、を…宇津木病院…に、連れて行ったって…。頭打ってるねん…。骨も…折ってるかも、しれへん…。旭を、助けたって…」
「おまえはどうする」
「…僕は、もう…旭や、おじさんの所に、は…戻れへん…。だから、ほっといて。…このまま…ここに。もしも、まだ生きてたら…あんたが、殺して…」
「…わかった」
僕は、心の中で男にお礼を言う。
旭の手が、温かい。
たぶん、僕の手が冷たいからだ。
最後に、旭の顔をよく見たいけど、もう目が霞んで見えない。涙で滲んで見えない。
月島、最後に変なこと言ってたな。白波瀬の紋章…?紋章ってなに?よくわからないけど、そんなもの、欲しいのならいくらでもあげるのに。
僕は、ただの人間として、旭の傍にいたかった。僕の望みはそれだけだから、紋章なんていらない。
旭、僕を愛してくれて、ありがとう。
旭がいてくれて、幸せだったよ。
僕のことは忘れて、幸せになってね。
……なんて、うそ。
本当は、僕のこと、忘れないで。ほんの少しでいいから、覚えていて。知ってると思うけど、僕は我儘だから。
さよなら、旭。大好きだよ。
僕の手足が冷えて、もう感覚がない。
僕は、細く震える息を吐くと、そっと目を閉じた。
第一部完
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