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『1』
東京はすごく分かりやすくて便利な街だった。こっちに引っ越してきてからは、慣れないことだらけだ。土地はだだっぴろいし、テレビの天気予報はあてにならない。お洒落な服も最新のお菓子も売ってない。だけど代わりに、変な店ばかりある。
中学は、最初、つまんないなって思っちゃった。だってみんないも臭いし、呑気なツラがまえばかり。恋愛ごっこも受験競争も無縁。話題は家のこととか、遊びの話。その遊びだって、カラオケとかゲームとかじゃなくて、川に飛び込むとか山で秘密基地を作るとか。……案外、楽しい。それにみんな優しくて、いじめなんてありえない。だいたい、小さい頃から一緒に生まれ育ってきたんだもんな。どうせ幼稚園も小学校もまるまる一緒だから、いまさら喧嘩もないんだろう。
山々。田園。古い平屋。
のんびり広がる風景。
だけど、一角だけ、やたらにごちゃついた街がある。山のふもとだ。
でたらめに伸びる細い石段を、のぼって駄菓子屋でラムネを買う。それを飲みながら、またのぼる。左右に家やら、また細い道が広がっている。どこからどこまでが、一軒なのかわからない。ずうっと同じ黒い壁が続くかとおもえば、同じ作りの建物がずらっと並んでいる。新しくはない。途中に、いきなり大きなのっぽの古時計が置かれていて、いつ止まったのかわからないけど、3時ちょっと過ぎを指したまま、斜めに突っ立っている。
突き当たりにはお墓がある。なんとなく線香臭い気もするけど、気のせいかもしれない。そこを左に曲がったら、お目当ての場所だ。草木が自由に生い茂る中に、門が埋もれている。そこからは入らず、もうちょっと歩いた先、裏口みたいな木の戸を開けて、中へと進む。石畳。綺麗にすればいいのに、昔は立派な庭だったろうに、今じゃそこらへんの雑木林と区別がつかない。沼みたいな池を横目に、更に奥へと歩いていく。
突然、視界はひらけて、黄緑色の芝生が広がる。
そこに、大きな三階建ての家が建っていた。
雨土に汚れたままの、ガラス張りのサンルーム。すべての窓にはカーテンがかかっている。くすんだクリーム色。ぱっと見、洋風の屋敷のくせして、むこう半分は日本家屋だ。
通称、魔女の家。
人の住んでいる気配はない。
ラムネを飲み干して、俺は魔女の家に近づいていった。
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