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「……………」
硬直した大人を見て、俺は楽しむ。ヒヤさんは紅茶を飲み干してから、頭を抱えた。
しばらくして、小さな声が返ってきた。
「……………………その妄想はどうにかならない?」
「妄想じゃねーし確定した未来だし。てゆーか未来じゃなくてなうでもいいんだけど俺は」
間髪いれずに打ち返す。
「……子供に興味ないよ…………」
「興味持ってよ。年下ダメ? 年上のがいい?」
身を乗り出すと、逆にむこうは椅子の背にもたれて引いた。
「この話は何度もした。もうしない」
整った顔立ちをしかめて、ヒヤさんは息を吐く。
「する。ヒヤさんの気が変わるまでする。未成年だからダメなの? 俺あと四、五年かかるよ?」
「知らないよ……」
「知ってよ。つか子供好きなんでしょ。俺14だからギリギリでロリだよ」
「はあ? あのなあ、」
「友達から聞いた」
あそこには男の子が大好きな変態がいる。甘いお菓子に誘われて、食べられるのは女の子じゃなく、男の子。
童話じゃ、グレーテルにはヘンゼルがいて助かったけど、現実にある、あのお菓子の家では、たった一人で足を踏み入れた男の子は帰って来られない。横にある墓地には、今までに犠牲者になった男の子たちの、無数の骨が埋まっているとかいないとか。
だから、魔女の家。
そう呼ばれている。
「……そんなのを信じる歳でもないだろ」
ヒヤさんは呆れ顔で、空いた皿を片付け始めた。
「べつにそのまんま信じてるわけじゃないよ。でも寓話は世相から作り出されるし、物語は現実がなきゃ生まれないだろ。実際ヒヤさん、お菓子作り上手じゃん」
「賢いね」
「バカにすんなよ。……なあ、俺じゃダメなの?」
大きな手の甲に、そっと触れた。……ヒヤさんがビクッと跳ねる。逃げようとする手を握る。俺のほうが熱いのが、なんだか恥ずかしい。
俺は女の子に興味がない。それは物心ついたときから、わかっていた。自分が女になりたいとは思わない。男として男が好きだ。
そしていい加減、好かれたい。実らない片想いは、もううんざりだ。小さな恋のつぼみも、夢想な愛も要らない。もっと現実的に、肉体的に経験値を得たい。
「……君さ、そういうこと、他の人には言わないほうがいいよ。……」
「ヒヤさんにしか言わないし。……てか言えないし」
「……………………………なんで僕なんだ」
「だからー。前にも言ったじゃん。他に相手いなさそうなんだもん、この辺」
「……………そんな安易な理由でこんな危ないところに来ないで」
「危なくないよ。ヒヤさん優しいし」
優しい、と口にしたら、冷たく手を振り払われた。少し怒ったような瞳。そうは思われたくないってことか。
「どんな目に遭っても知らないよ」
吐き捨てるように、ヒヤさんはそう言った。
どんな目って、どんな目だよ。
どうせ臆病なくせに。
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