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簡単にはがれて、その少しかさついた手の、小指と自分のそれとを絡める。俺が動いたせいで、ヒヤさんは後ろに倒れそうになって、変な姿勢。押し倒せそう。しないけど。
押し倒してキスのひとつでもしたかった。漫画やドラマじゃ簡単にやってるけど、いざやるってなると、どうしていいのかわからない。どうやったらあんな綺麗に出来るんだろう?
ただでさえ恥ずかしいのに、失敗したら余計、目も当てられない。だから諦めて、小指を軽く引っ張り、手首にキスをした。大人は完全に硬直した。
「ヒヤさん」
返事をしないので、繰り返す。上の空な相槌が返ってきた。
「……………………………うん?」
「指を切り落とすのは、約束したときだよ」
「え?…………うん…………」
「約束破ったときにするのは、針千本飲むんだよ」
「…………………………うん」
「分かった?」
「はい」
「べつに切んないけど」
「…………………………うん」
「俺のことも、誰にも言わない?」
「うん………………」
「……じゃあ、なにしてもいいよね」
「えっ?」
なんでヒヤさんは、こんな部屋を作ったんだろう。ここには柔らかいものばかりだ。光も、色彩も、感触も、形も。あたたかい。だけど、ほんのり陰のある。
「っ…………ちょ、駄目。こら、」
「うるさい」
「ひ、とにむかって、そういうこと言うのは、よくない……」
「うるさいなー、もう」
「……………っ」
ほの暗い感情。先走って抱きついたあと、自分でも戸惑ってぎゅっと目をつぶった。そんな拒否んないでよ。傷つくよ。
ヒヤさんは痩せてるほうだけど、子供の俺からしたら、やっぱり大きい。ずっと触れたかった。なかなか近づけないでいた。強張ったままの、相手の背中にしがみつく。鼓動が速い。緊張してるだけ? それとも、嫌なのかな、こういうの。
俺を抱きしめ返してはくれないんだ。
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