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④
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ここは一先ず退散して出直した方がよさそうだ。
和気あいあいとしていたんだろうその空気が張り詰めた危ういそれに激変したのを感じた俺は、とにかく微動だにしない真弓のいたるところをバンバン叩きながら、涙声でその旨を伝えた。
しかし。
「何お前、誰?」
「まさか俺らに喧嘩売ってんの?」
「うっそ、こわーい」
ざっと五十人はいようかというその中から、一番派手でいかつくてイケイケの三人がゆっくり近付いてくるのが見える。
も、漏れる…(涙)
「おい、デコボコ。黙ってねぇで何とか言え」
傷み過ぎて収集のつかなくなっている金髪ロン毛の野犬が、黙ったままの真弓にそうぐいっと顔を近付けた。
俺なら既に失神しているだろうその状況にも構わず、真弓の目はキョロキョロと何かを探しているように動いている。
ま、まさか…。
「ザコに用はない。ボスを出せ」
か、カッコイイ…。
ああ、これがマンガの世界ならどんなにいいだろうか。
そしたら俺は菓子を食いながら
「いーぞ真弓そんなボサボサの金髪バカやっちまえ!」
って笑いながらキャラを煽っていたに違いない。
「……………」
あれ、幻聴?
今自分の声が聞こえたんですが。
「金髪バカって俺か?俺だよな?」
真弓から血走ったその眼が一瞬で俺に移り変わる。
こ え に で て た
「あああああのちがいますひとりごとですいまげんじつとうひというもうそうのせかいにとびだってましたすみませんすみませんすみませ―」
「お前から、死ねや」
ふっと、影が顔に落ちる。
さようなら、俺。
思えば平凡な人生だった。
平凡を望んでたから別に不満はないけど、いざこうやって死ぬ瞬間になると、思い返す時にもうちょっと楽しめる人生でもよかったかも知れない、なんて思う。
ごめんね両親。
先立つ不幸をお許し下さい。
目を閉じ、覚悟を決めるもなかなかその一撃が降ってこない。
しかも何だか辺りがざわざわとどよめき立っている。
まさか、もう死んじゃって魂抜けたとか?
俺の血塗れの死体を見て皆びびってんだろうか。
目を開けてみた。
「ぐ、あっ…、」
「だ、れだよ、こ…いつ」
足元に転がるは先程の野犬二匹。
俺を殴ろうとしたヤツは白目をむいて消沈していた。
「え?え?」
まさか、俺がやったのか?
秘めたパワーでやっつけたのか?
そうか、窮地になると超人になるのか俺は。
うっほほーい、すげぇな俺!!
「ザコが。俺の大事な友達には指一本触れさせねぇ」
なーんてな。
んなわけないない。
当たり前だけど真弓がやらかしたものだった。
「はーいそこまでー」
突然パンパン、と手を叩く乾いた音が聞こえたかと思うと、奥から見覚えのある人が姿を見せた。
確か、保健室にいた美形さん。
「お前らさぁ、どう見たって客人じゃん。見なよ、隣のおチビちゃん」
おちびちゃん、と美形さんが言った後、周りの視線が俺に集中する。
やっぱり俺ね。
「アレが、喧嘩売りに来るような輩に見える?しかもこの場所に」
アレ、と指差され、一同の首が綺麗に左右に動いた。
「隣のノッポくんはどうだか知らないけど?」
言いながら、その視線が真弓に移行する。
真弓、きちんと説明しろ。
何だか知らんがこの美形さんの言う事は皆聞くらしい。
味方につけるんだ!
さぁ早く!!
「アンタにも用はない。ボスを出せ」
ズコーん。
ああこれがコントならどんなにいいか。
思いっきり転けて突っ込んでやるわ!!
ズコーん、なんでやねん!!
てな!!
ズコーんて………
なんでや…ねん………
「……………」
もう、漏らしてもいい?
また張り詰める空気。
美形さんの顔はさっきと変わらないが、しかし纏うオーラの明るさ度がみるみる下げられていくのを感じる。
そして一同臨戦体勢。
死んだ。
「今年の一年は威勢がいいね。お前で2人目だよ、俺に舐めた口聞いたの」
鋭くなった眼。
優しかった口調も冷ややかなものに変わる。
真弓のバカ…。
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