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キッカケなんてその辺に転がってたりするわけで
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目の前にあるは山盛りに積まれた売店のパン。
さっきボスザルの手下が急いで買ってきたものだ。
それは決してパシらせたなんていう悪行ではなく、買いに行こうとするボスザルに手下数人が是非自分達に買いに行かせてくれと自ら懇願した結果だった。
あれは恐れからくる言動なんかじゃない。
ボスザルの為に何かをしたいという想いを強く感じた。
そう、野犬共は皆ボスザルを崇拝している。
今まで俺は、ボスザルが力で押さえつけて従わせてるんだとばかり思ってた。
不良の世界はどこもそんなもんなんだって。
でも違った。
ちょっとだけ見方が変わった。
死にそうです。
「消化不良起こすよ」
「あ?」
「そんな睨み合いながら食ってたらさー」
死にそうです。
自分に五寸釘を打ちたいです。
どうして俺は皆でお昼にしようとかイカれた発言をしてしまったんだろう。
消化不良起こすとしたら俺しかいないよ。
てかもう起こしてるよ胃が痛いよ助けろよ医者。
「せっかくお客さんがいんだからさー、楽しくしようよ」
「さっきコイツに蹴りかましてたヤツがよく言うぜ」
「さっきはさっき、今は今」
ハルさんだけが何だか楽しそうに笑顔を作っていた。
ボスザルと真弓は相変わらず睨み合ったまんまだし、俺は萎縮しながら胃の痛みに耐えるのに必死だし。
周りの野犬は遠巻きにこっちをチラチラチラチラうっとーしいったらない。
死にそうです。
「祐介、食べたら帰るぞ」
俺の提案に俺よりびっくりしていた真弓がぼそりと俺に呟いた。
いつから脅されてるんだとかガクガク肩を揺すられたが、そんな事実は実は全くないんだと誤解が解けた時、真弓は急に大人しくなった。
激しい誤解で先輩に失礼な事をしてしまったと、彼なりに反省はしているようだ。
だったら睨み合いをやめなさいって話しなんだが。
「帰るならお前一人で帰れ。ユースケはまだここにいたいってよ」
「そうなのか?」
返答に困る質問を振られ、うっかり手にしていたパンをコンクリートに落としてしまう。
「あ、え、や、ちょ、うん、や、ちが、ぇぇー…」
どっち寄りの返事をすべきか迷いに迷って意味のない言葉を連発すれば、あははっとハルさんの笑い声が聞こえた。
心の底から楽しそうですね…。
「おっもしれーね、ちびっこ。壊れたオモチャみたい」
「どっちなんだよ」
「はっきりしろ」
二人に詰め寄られ、更に言葉に詰まる。
もう、死にたい。
「ちゃ、チャイム鳴ったら…帰る…、よ」
「だったらもう鳴るな。急いで食べよう」
ほら早く、と真弓は落ちたパンを拾ってくれた。
それに再び口をつけようとすれば、横からバシッとパンを叩き落とされ目が点になる。
一瞬固まった。
何が起こったのかと考えるも全身が状況把握という理解を拒んでいる。
固唾を飲みながら黒目だけを動かし恐る恐る隣を見た。
「ひっ…!」
そこに光るは二つの眼。
目が合った瞬間喉の奥から情けない声にならない悲鳴が上がる。
その眼は、明らかに獲物を捕食してやろうというそれだった。
ボ ス ザ ル が き れ た
「ごごごご…っ」
何が彼の逆鱗に触れたのか。
とりあえず謝ろうとするもごしか出てこない。
ああもう殺られる。
次は顔にその手が飛んでくるんだと、俺は歯を食いしばった。
「ほら、こっち食え」
しかし、飛んで来たのは手ではなく優しい声。
無意識に閉じていた瞼をそうっと押し上げ、俺は目の前に出されたパンを凝視した。
「え、え…?」
「落ちたもん食うな。腹壊したらどうすんだ」
「え、…あ、ありがとう…ございます」
それは食べかけのパン。
よくわかんないけど、ちょっとだけ嬉しいという気持ちが沸き起こる。
ボスザルに優しくされた。
不良のボスが、俺に気を遣ってくれた。
その辺に落ちてるもんとか平気で食すのが不良だという失礼な偏見も消えた。
もしかしたらそこまで怖がらなくてもいいのかも知れない。
そう、差し出されたパンをビビりながら手に取って。
「どうせなら新品あげたらどうですか」
「テメー、ユースケのダチじゃなかったらとっくに殺ってんぞ」
「これだから不良は嫌なんだ。悪いけど、俺はアンタなんかこれっぽっちも怖くない」
「別に恐がらせるつもりなんかねぇ。殺すだけだっつってんだろうがよ」
「殺人予告も立派な犯罪ですよ、頭悪いから知らないだろうけど」
「あ?」
目の前で勃発している争いにも気付かず、俺はボスザルの食べかけのパンを一口かじった。
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