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大した問題もなく昼休みになり、またボスザルが現れないかとヒヤヒヤしていた俺は、先手として教室から裏庭へと移動していた。
もちろん真弓付きで。
「たまには外もいいな」
6月頭。
日中は日差しも強さを増し、今日は特に暑い日だった。
太陽に照りつけられながらの昼食に、俺は来ていた学ランを脱ぎ捨てる。
そろそろ半袖でもいいか、何て考えながら売店で買ったパンを一口かじった。
備え付けのベンチに真弓と二人で座りながら、右側に置いてあったジュースを手に取り、ふと校舎を見上げた俺は瞬時に固まった。
「祐介?」
空を仰いだまま微動だにしない俺に、真弓の不審気な声がかかる。
しかし俺の意識は視線の先に全て向けられ、その動力はその先にある光景に全て奪われた後。
動けなかった。
屋上から俺を見下ろしているボスザルに金縛りの術をかけられてしまったように動けなかった。
逃げなければ。
そう思うも絡まった視線がそれを許してはくれない。
ついには手招きまでされてしまい、俺の全身から汗がぶわっと溢れ出すのを感じた。
「祐介、大丈夫か?」
「ま、真弓…」
「どうした」
「俺、そ、そ、…早退するから!!」
じゃあな、と死ぬ気で術を解き、俺はパンとジュースをほったらかしてその場から逃げた。
逃げなければ。
ただそれのみで俺の脳は命令を下す。
走れ、光の如く走り続けろと。
教室に寄って鞄を手にひったくり、そのまま下駄箱に直行する。
靴に履き替え、裏門から出ようと俺は校舎裏へと回った。
しかし。
何で分かったんだろうか。
そこに待ち受けていたのは疫病神二人。
携帯片手に赤髪が何やら話しているのが聞こえた。
「今から捕獲してお届けしまっす」
「祐介、そこ動くんじゃねぇぞ。逃げたら殺す」
ひ…………っ!!
白髪にそう凄まれ、しかし俺は間髪入れずに踵を返し逃げ出した。
逃げなければ。
逃げなければ。
こ ろ さ れ る
「うわああぁー!」
余りの恐怖に絶叫した。
そして追い掛けてくる二人の気配を感じて号泣。
泣きながら走った。
捕まるって分かっててもそれでも走り続けた。
関わりたくない、もう関わりたくないんだ。
あんなふうに誰かの血を見るなんてもう真っ平御免なんだよ!!!
分かるかお前ら不良にこの凡人の平和を切に求める気持ちが。
何をやっても人並み以下だった俺は、当然走るのも亀のようにとろかった。
だからすぐに捕まると思った。
止まらない涙をそのままに、それでも俺は力の限り走り続けた。
しかし、本来ならもうとっくに捕まっていてもおかしくはないはずなのに、未だに俺は走り続けている。
人気のなくなった廊下に、響くその足跡は俺のものだけ。
気付いて、足を止めた。
ぜぇぜぇと息を切らしながら振り返る。
いない。
そこに追ってきているはずの疫病神二人はいなかった。
「はぁ、はっ…、うそ、…っ、逃げ、逃げ切れ、…た?」
一気に脱力感に襲われ、俺はその場にへなへなと座り込んだ。
必死で走っていた為、ここがどの校舎かわからない。
でもそんな事は大した問題ではなく、俺は息が落ち着くのを待った。
やっぱりもう無理だ。
輝彦さんに頼もう。
あの人ならきっとなんとかしてくれる。
座りながら地面を見つめ、滴り落ちる汗を拭った。
「祐介」
けれど聞こえたそのあり得ない声に、再び汗が滝のように額を流れ落ちる。
何でだよ。
何で俺に構うんだ。
疲労感が、俺の恐怖心を丸飲みする。
今なら言えると思った。
「逃げんなよ」
背後に降り落ちるその声の主を振り返り、ボスザルが目の前に来て膝を折るのを黙って見詰める。
「祐介」
優しい声だった。
でもその顔は、悲しそうに歪んでいた。
「俺は…っ」
何でだろう、涙が出た。
恐怖からじゃない、自分でもよくわからない、だけどそれは止まらなかった。
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