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もやもやする理由は①
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結局早退はせずに、俺はその日最後まで学校にいた。
ずっと上の空で授業だって身にならず、頭の中が空っぽになったみたいに何も考えられなかった。
あの時トイレでボスザルに遭遇してから、…違う、ずっとずっと前から不良なんていう生き物は俺にとって天敵であり、この先もずっと関わりたくない存在だったはずで。
だから、だから今のこの状況を心底喜ぶべきだった。
ボスザルはもう、二度と俺に近付いたりはしない。
言葉にこそされてないものの、昼休みに言われた言葉一つ一つに、そういう意味が込められているのがわかった。
それを心底喜ぶべきなのに、涙を流して万歳くらいしたっていいはずなのに、俺は一体どうしてしまったのか。
魔王が相手だとわかっているんだろうか。
「祐介、夕飯どうする?」
「………はい」
「はいじゃねぇ、どうすんだって聞いてんだよ」
「………はい」
「お前、人の話し聞いてんのか」
「………はい」
「夕飯何食べたいんだって。リクエストねぇの?」
「………はい」
「じゃあ今日うんこな」
「………はい」
「おっまえ、ぜってー食えよ、ぜってーだかんな!!」
「………はい」
夕飯がうんこになろうかという危機的状況に陥ったにも関わらず、俺の思考は依然としてその機能を放棄したまま。
それでも返事が出来ているのは、無視をすれば確実に血祭りに上げられるという危険を本能が察知していたからであり、本当なら返事だってするのもめんどくさかった。
制服のままソファに座り、ただ一点をぼーっと見ているだけの俺を見て、魔王の口から大きなため息が溢される。
「祐介」
「………はい」
「何かあったのか?例の不良絡み?」
「……はい」
キッチンでまたもビールを飲みながら、魔王ははいしか言わない俺についに我慢の限界点を突破した模様。
スタスタと近寄って来たと思えば、
「コロス」
と一言呟き俺の顔に平手打ち。
その瞬間俺の中で魔王は大魔王に昇格した。
「目、覚めたか」
「スッキリしましたありがとうございました」
「よし、行くぞ」
「何処にでしょうか」
大魔王様といいかけて咄嗟に手で口を覆った。
「買い出しだろーが。あのバカ彦、人に飯頼んどいて何も買ってねぇんだよ」
ほら行くぞ、と空になった缶ビールを机にコンッと勢いよく置くと、舌打ちしながら大魔王は玄関へと向かった。
叩かれた頬を緩く撫でながらその後を追う。
着替えてもいいか聞こうとするも、き、と言っただけで却下と言われ、逆らう勇気なんて微塵もなかった俺は制服のままスーパーへと向かった。
無造作に商品をカゴにガンガン入れる大魔王を後ろから黙って見ていた。
一体何を作る気なんだと思わずにはいられないくらい本当に適当に手当たり次第ガンガン入れまくっている。
さっきリクエストはないのかと聞かれたのに生返事してしまったから、今更夕飯について聞く事すら大魔王の逆鱗に触れそうだ。
ご飯のごの時点で裏拳が飛んでくるな。
間違いない。
だって大魔王に変身されましたから。
させてしまったのは俺だけど。
「こんなもんか」
気付けば、カートに乗せたカゴには何が何だか分からない商品の山。
何がこんなもんなのか聞きたかったけどやめた。
てか徒歩なのにどうやって持って帰るんだろう。
まさか…、や、まさかじゃなくてもそうですよね、きっとそうなんですよね。
「お前荷物持てよ」
ですよねやっぱり。
指先に痺れが走るのはあっという間だった。
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