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少しずつ亀裂が入ります①
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俺がいない間に二人は夕飯を済ませたらしく、とりあえず俺の夕飯の準備をするからと大魔王は俺をカウンターに座らせた。
対面式のキッチンだから、その様子がここからもよく見える。
なんかもう、色々と言葉にならなかった。
「ほらよ、メシ」
「……………」
ドン、と目の前に置かれたのはキャベツが丸々一個。
皿に乗せられているだけまだマシと思うべきか。
考えているとその横にトンっと塩が置かれた。
「……………」
詰め替え用の袋に入った未開封の塩じゃなく瓶に入れてあるだけまだマシと思うべきか。
いや、食べ物であるだけまだいいと有り難く思うべきか。
あらゆる方向へ前向きに捉えようとしたが、冗談だよ、と言った大魔王の言葉に安堵した瞬間ドンッとマヨネーズを置かれ、そして早く平らげろとせっつかれてそれにもあえなく挫折した。
ものすんごく烈火の如く怒ってるのがよくわかる。
しかし、キャベツはない。
成長期の男子にキャベツ丸々一個はない。
「お前、本来ならうんこだったんだからな。キャベツになっただけ有り難く思え」
ああ、まだそれを引っ張りますかそうですか。
大魔王ですもんね、ネチネチねばねばしてないはずがないですよね。
「食え」
「あの…」
「何だよ」
「夕飯抜きでいいですすみません」
「あ、そう」
目の前からキャベツが消えほっと息を吐いた。
「本当に抜きにするとバカ彦に俺がグチグチ言われるから後で何か食っとけよ。んで俺にすんげー旨いもん作ってもらったとか言っとけ」
分かったなと睨まれ無心で頷く。
やっぱり大魔王だこの人。
スーパー大魔王だ。
放心するようにぼーっと宙を見詰める俺に、大魔王はこっちに座れと指示を出した。
振り返るとビール片手に大魔王はソファにふんぞり返り、テーブルを挟んだその目の前にはボスザルが地べたに座っている。
流石です大魔王様。
あのボスザルをも下僕扱いですね。
客と呼んだ相手を地べたに座らせ自分がソファに座るなんてとても大魔王様らしくて清々しい気持ちにすらなります。
「こっち、す・わ・れ」
「…はい」
とりあえずボスザルを見ないように俺はテーブルから少し離れて座った。
「お前がバックレてる間にアホに絡まれてさぁ、そいつが助けてくれたんだよ。お前と一緒でバカ高。ちなみに絡んできたのもバカ高のバカ二人」
「はい…」
「お前みたいなヒヨッコでも一緒にいれば絡まれたりしなかったかもしんねぇのにいきなりバックレたからねぇ本当の理由は後程ゆっくり聞かせてもらうけど」
「心の底からすみませんでした」
「お前名前何だっけ」
「浅間」
「何年?」
「二年」
「じゃボスとタメだ」
「ボス?」
「バカ高のだよ。そこのバカが何かつきまと―」
「わあぁあああ!!!」
ちょっと待ちなさいよ大魔王さんよ。
いきなり何でそんな流れに持ってくんですか。
いらん事を言うな。
お願いします、心の底からお願い申し上げます。
マジで俺本当にヤバくなるから。
「ん、だよビビらせんなヒヨッコめが」
いきなり叫んだ俺に目を丸くしながら大魔王が低い声でそうぼやいた。
ボスザルも何かを疑うような目で俺を見ている。
勘づかれたか、そう思うも、とにかく話しの流れを変えようと俺は窓を指差し必死になった。
「い、今、ほら…、そう!ゴキブリがそこ飛んでたから、うん、ゴキブリが、ゴキブリ」
「ゴキゴキうっせぇよ」
「さ、探して殺した方がいいんじゃないかな。そうだ!皆でゴキ退治でも―」
「しねぇよ。そうだ!じゃねぇよ。むしろお前が掴まえて尚且つ食せ」
「ですよねすみません」
また大魔王様の機嫌を損ねてしまったようだ。
さっきよりも俺を見る目付きが鋭くなってしまった。
しかし作戦は成功した模様。
話しはバカ高から他へと移った。
「てかさぁ、浅間だっけ。俺なんか見た事あるような気がすんだよね」
言いながら大魔王がじっとボスザルを見据える。
ボスザルは無言で置かれてあったビールに手を付けた。
そして一言。
「やっぱ俺を釣ろうとしてんじゃん」
「ばっか、俺にはちゃんと彼氏いるって何回言ったらわかんだよ。そうじゃなくて、どっかで見た」
「どっかって?」
「んー、忘れたけど」
大魔王はそれから考え込むように眉を寄せ、ボスザルはどうでもいいと言うようにビールを飲み続ける。
俺はただ黙って二人の様子を伺っていた。
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