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こんな事になるなら相談なんかするんじゃなかった。
てか、輝彦さんにだけ言えばよかった。
大魔王シネ。
「なんだバカ介、もう解決したんだ?てかお前ら知り合いだったんだな」
「はぁ…」
もういいよお前。
これ以上深く話を掘り下げるな。
いつか絶対お前をギャフンと言わせてやる。
初めて大魔王に対して殺意に似た感情が生まれた。
「よかったじゃん。マジで嫌がってたもんな」
「…………」
この人は本当に…っ。
「またつきまとわれたら浅間に頼めば?なんとかしてくれるみてぇだし」
何も言わなくなったボスザルを、俺はもう見る事ができなかった。
俯いて、床をじっと見詰める。
訳の分からない涙を堪えるのに必死だった。
この先、これまでと変わらずに関わりたくないと望むなら、ここで嫌われた方が得策といえる。
たとえそうする事でボスザルが傷付いたとしても、弁解なんて間違ってもするべきじゃない。
もし俺に近付かないという事を取り下げられてしまったら、もう二度と逃げられなくなってしまう。
耐えろ祐介。
あんな日常、お前は絶対に欲しくないんだろ?
だったらここでキッパリと拒絶しておくべきだ。
だから耐えろ。
今ある胸の痛みは、きっと良心の痛み。
これを乗り越えたら、お前の平穏な人生は守られる。
だから。
「バカ介、何黙って―」
大魔王が言い終わらないうちに電話が室内に鳴り響いた。
携帯じゃなく、固定電話。
チッと舌を鳴らすと、大魔王はソファから立ち上がり電話を手に取った。
「ああ、輝彦。うん、帰ってきた。あー多分充電切れ、うん、食ったよ」
大魔王の声を遠くに聞きながら、俺はそっとボスザルの方を見てみた。
机に肘をつき、缶ビールに口をつけるその姿を無意識に見詰める。
涙はなんとか堪えた。
でもそれも、再び重なった視線に危うくされる。
「何でお前がそんな顔してんだ」
「え…」
絶対に怒ってるだろうと思い込んでいた俺は、ボスザルのその柔らかい表情に意表をつかれた。
「気にしてんのか」
缶ビールをコンッと机に置き、ソファに移動するボスザルを黙って目で追う。
「普通ここだろ、俺が座るとこ」
それから呟いたその一言に、俺の強張っていた口元が微かに崩れるのを感じた。
平穏な人生は、誰もが望む事だと思う。
失いたくないのも、手に入れたいのも、守りたいのも、皆同じなんだと思う。
俺だってそうなんだ。
今まで歩んできた平凡な人生と同じ人生を、この先も歩いていきたい、守りたい。
だけど、違う。
俺は、俺は…。
「別に気にしなくていい。慣れてる」
言いながら苦笑するボスザルに、俺の中の何かが壊れるのを感じた。
違う、俺は、違う…。
俺は、この人を傷付けてまで守りたいとは思えない。
慣れてる、なんて、慣れてるとか、そんな事に慣れないで欲しい。
不良だと言うだけで向けられてきた冷たい視線や受けてきた差別なんて、きっと数え切れない程あるんだろう。
誤解を解きたい。
俺は決してその中の一人なんかじゃないんだと。
「あの…っ」
「バカ介」
開きかけた口も、大魔王に邪魔される。
殺意に似た感情ではなく殺意が生まれた。
「輝彦帰って来るって。早く何か食え。腹なんか鳴らして見ろ、地獄送りにしてやるからな」
そう言ってまたギラーンと目を光らせた後、大魔王は買い忘れた物があるからと部屋を出て行った。
なんかもう、二度とここへ帰ってくるなと願ってしまうのは当然の感情と言えますよね。
大魔王がいなくなった事で、室内が一気に静寂に包まれる。
言うなら今だ、今しかない。
バクバクと煩い心臓を宥めるように大きく息を吸い込んだ後、俯きながら俺は口を開いた。
「あの…」
「飯、何か作ってやろうか」
俺の言葉を遮るその声に、俺は反射的にふっと顔を持ち上げた。
「え…」
「簡単なもんしかできねぇけど」
「は、い…」
よくわからないままそう返事をすれば、ボスザルは待ってなとキッチンに移動した。
何で、何でこの人は俺にこんなに優しくしてくれるんだろうか。
さっき傷付いたはずなのに、俺にムカついたはずなのに、何で…。
なのに俺ときたら、よく知りもしないで、知ろうともしないで、恐いからとただ保身の為だけに動いて、傷付けて。
バカだと思った。
一番最低なのは自分だと思った。
涙が止まらなかった。
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