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④
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キッチンに背を向けながら、ぎゅっと拳を握り締める。
きちんと謝ろう。
付き合う付き合わないは別として、とにかく酷い態度を取った事を詫びよう。
理由も話して、もしまだ間に合うなら、もしまだ俺に近付きたいと思ってくれてるなら、もう一度、最初から始めて貰おう。
そうする事で俺が望む人生は歩めないかも知れない。
でも、ボスザルを傷付けてまで、誰かを傷付けてまで俺は平凡な人生を望みたくはない。
ボスザルと関わる事で波乱万丈な人生になったとしても、それはそれで受け入れていこうと思うんだ。
ナツさんとゴンタさんだって、決して悪い人ではなかった。
少ししか話さなかったけど、分かるんだ。
ハルさんだって…。
制服の袖で、涙をガシガシと拭った。
それからまた深呼吸して、俺はゆっくりとキッチンを振り返る。
丁度出来上がったところなのか、カウンターには湯気を立てるオムライスが置かれていた。
「味の保証はしねぇ」
「あ、ありがとう…ございます」
見掛けによらず器用だなと、綺麗に盛り付けてあるそれを見ながら思う。
またカウンターに座り、俺は用意されてあったスプーンを手に取った。
じっとボスザルに見られながら、一口食べる。
「おいしい…」
「そうか」
そう言って笑うボスザルを見た瞬間、俺の目からポタポタとまた涙が溢れ出してしまった。
だけどボスザルは何も言わずに、黙って黙々とスプーンを口に運ぶ俺を見ているだけ。
泣きながら食べるオムライスは、しょっぱかった。
こんなにおいしいご飯を作れる人間が、極悪なわけがない。
それは、今まで食べたどのオムライスよりも美味しかった。
「ごちそうさまでした…」
食べ終わる頃には涙も乾き、冷静になった俺に少しの気恥ずかしさが襲いかかる。
また俯いて、空になったお皿を見つめながら、俺はゆっくり口を開いた。
「あの、俺―」
「たっだーいまー」
「……………」
またしてもお前か、大魔王。
勢いよく扉が開き、俺はぐっと下唇を噛み押さえた。
そして疲れたを連発する大魔王をキッと睨む。
が。
「偶然そこで会ってさー」
「……………」
「……………」
「……………」
大魔王の後に続いて入ってきたのは真弓。
俺とボスザルを交互に確認した後、その形相はみるみる険しいものへと変化を遂げた。
無論、ボスザルもである。
な、何でまたそんなヤツを連れて帰って来たんだ大魔王め!!
本当にもう死ねばいいのに…っ!!
「何やってんだゴウ、さっさと入れ」
「お邪魔します」
大魔王に促され、ようやく真弓が動き出した。
ソファに座る気配を背後に感じながら、俺の全身から嫌な汗が滲み出す。
「兄の付き合ってる相手の甥だったんだな、祐介」
ああ、知ってたんだ、付き合ってる事。
「う、ん、俺も最初ビックリした」
「けどなぁ、何でお前の叔父の家にソイツがいるのかが俺には理解できない」
ピリピリとした空気は言うまでもなく、俺の毛穴からは更に量を増して汗が吹き出していく。
よりによってまた何でこんなタイミングなんだ。
せめて誤解を解いてからにして欲しかった。
このままだと、下手すればもっとボスザルを傷付けてしまうかも知れない。
それだけは避けたかった。
「何だよゴウ、お前も浅間知ってんだ?」
「知ってるも何も、我が高のボスだからな」
そう真弓が答えた瞬間、大魔王が俺の隣に走ってきた。
また逃げそうになった。
「祐介、悪かった。俺マジ余計な事言った」
俺の両肩をガシッと掴むと、大魔王はそう言って頭を下げた。
だ、大魔王が俺に謝ってる。
なんか恐れ多すぎて逆に罪悪感すら生まれるんですけど…。
「あの、俺は別にもう…」
てか一番に謝って欲しい相手はボスザルなんですけど。
「荷物放置してバックレたの、これでチャラな」
ああ、それは有り難い。
そして大魔王は次にボスザルの隣にダッシュし、謝るのかと思いきや。
「祐介イジメたら殺す」
そう凄んだ。
ああ、やっぱり貴方は大魔王様でした。
その思考は我々人間には到底理解できません。
恩人に対してその無礼極まりない態度、拍手です。
「別にイジメたりしねぇよ」
ボスザルも呆れたように笑っていた。
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