アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
⑥
-
そして、二人の気配が動いたかと思ったその時。
「ただいま」
輝彦さんがガチャリとドアを開け入ってきた。
ハッと目を見開くと、俺は一目散にその後ろへとダッシュする。
この時程輝彦さんを神様だと崇めたくなった事はない。
「どうした祐介。てか、誰だそいつらは」
スーツを脱ぎ、ネクタイを緩めながら輝彦さんは大魔王にキツイ視線を送った。
「あー、お帰り。そっちは俺の弟で、そっちは恩人」
「その二人が何で今にも喧嘩を始めようって雰囲気なんだ?」
「や、えーっと…」
おお、あの大魔王が動揺してる。
ざまぁだコノヤロー。
「で、お前は何で黙って見てる。どうしようもないって感じでもなさそうだが」
ここの主が帰宅したというのに、二人は挨拶どころか睨み合いすらやめようとはしない。
そんな様子にやれやれと目頭に指を添えた後、輝彦さんは大魔王に手招きをした。
「勝手に人の家に誰か入れんじゃねぇよ真生。俺が帰って来なかったら、今頃ここは乱闘の末めちゃくちゃになってたんじゃないのか」
「…ごめん」
しゅんとなる大魔王に盛大なため息を吐くと、輝彦さんは二人に近付きながら言った。
「こら、そこのガキ二人。主に挨拶ぐらいしたらどうだ」
言われて、最初に輝彦さんに視線を向けたのはボスザルだった。
軽く頭を下げ、また真弓を一度睨みカウンターへと座る。
続いて真弓も、すみませんと呟いてソファに。
どうやら乱闘は免れたらしい。
俺はホッと息を吐いた。
「理由は別に聞かねぇ。ガキの争いに興味もねぇしな。ただ、場所を弁えろ」
タバコに火をつけながら、輝彦さんは煙と一緒にまたため息を溢した。
「真生」
「…はい」
…………………。
はい、なんて返事の仕方知ってたんだ、大魔王。
その似つかわしくない返事に、俺は思わず吹き出しそうになった。
「祐介に飯、ちゃんと食わせたのか」
問われて、大魔王の肩が強張るのが見て取れた。
そして俺は大魔王に物凄い形相で睨まれる。
わかってんだろうな、とその眼は語っていた。
「た―」
「俺が飯作って食べさせた。勝手に使ってすんません」
俺が食べたと輝彦さんに伝えるより早く、ボスザルがそう暴露する。
大魔王の顔がみるみる青くなっていくのを見て、俺はまたざまぁとほくそ笑んだ。
「真生」
「ごめん、だって祐介が―」
「真生、俺が一番嫌いな事、知ってるよな」
低い声でそう問われ、大魔王はぎゅっと口を引き結んだ。
「男が醜い言い訳なんかすんじゃねぇよ。俺はお前に祐介の飯を頼んだはずだ」
「…ごめんなさい」
更に低い声でそうたしなめられた大魔王の目には、今にも零れそうに涙が溜まっている。
その顔が、またあまりにも大魔王に似つかわしくない物で、なんだか少しかわいそうになった。
あんなに酷い扱いを受けたのになぁ。
「今日は帰れ。そこの弟もだ」
「輝彦…」
帰れと言われて、また更に大魔王が悲痛な面持ちになる。
けれど輝彦さんはもう大魔王を見ようともせず、黙って扉を指差した。
「て、輝彦さん、何もそこまで…」
「お前は口を挟むな」
それから大魔王は真弓と二人で渋々部屋を出て行った。
その時真弓に、また後で電話すると言われて、俺は軽く頷いた。
「で、お前。名前は」
二人がいなくなった後、ビールを片手に輝彦さんはカウンターにいるボスザルに向き直る。
「浅間拳聖」
「祐介の飯、悪かったな。助かったよ」
「大したもん作ってねぇけど」
「祐介」
「あ、はい」
呼ばれて、俺もカウンターに移動する。
それから色々と聞かれて、俺は出来るだけわかりやすく簡潔に説明した。
まず最初にバカ高のボスだという事をかなり強く強調して。
また余計な事を言われるのだけはごめんだからな。
.
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
36 / 301