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⑦
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「なるほどね」
俺の話を一通り聞いた後、輝彦さんはそう言ってタバコを灰皿に揉み消した。
そしてボスザルを舐めるように見た後、俺にもチラリと視線を寄越す。
コイツがお前をねぇ、なんて言葉が聞こえてきそうだった。
頼むからいらん事は言わないでくれ…。
祈りが通じたのか、次に開いた輝彦さんの口からは全く関係のない話が飛び出した。
「最近、京南と橋北はどうよ」
京南、それはバカ高の正式名称で、橋北もバカ高同様猛者共が集まった隣街にある学校だった。
最近どうよ、なんて、どうしてそんな話が出るのかわからなかったけど、とりあえず俺は黙って聞いてる事にした。
「どうって別に」
「ちょっと小耳に挟んでな」
そう言ってまたタバコに火をつける輝彦さんに、ボスザルがふっと視線を向ける。
「お前もバカ高の頭なら知ってるだろ」
「何が」
「京南と橋北が敵対してる事だよ。しらばっくれんな、話が進まねぇ」
煙を吐き出し、黙るボスザルを見て輝彦さんは更に続けた。
「何で仲悪いか知ってるか」
「さあな」
「俺が橋北の頭を半殺しにしたからだよ」
さも事なげに話す輝彦さんに、俺は目が点、ボスザルも、は?って顔になった。
「あ、俺バカ高出身ね。言ってなかったけど」
「え、輝彦さん、そうなの!?」
確かに昔悪かったとは聞いてたけど、まさか俺の先輩になるなんて思ってもいなかった。
「発端はアンタかよ」
「待て待て、悪いのは相手だ。勝手に人のモンに手ぇ出すからさ。けど知らなかったんだよ、ボコったのが橋北の頭だってな」
輝彦さんが入った頃くらいから学校の風紀は段々乱れ始め、校内でも至るところで争いが起こっていたらしい。
それは年を重ねる事に悪化していき、輝彦さんが三年になる辺りで世間からバカ高と呼ばれ初め、今と変わりないものになったんだとか。
「一応京南をまとめたのは俺なんだ。頭が頭を潰したら、潰された方は当然支配下に置かれんだろ」
「まとめた…」
思わず呟いた。
…………………。
ぇぇー…
叔父が元ボスザルとか洒落になんないんですけど。
そんな俺の動揺なんておかまいなしに話しは進む。
「ところがだ、あっちもバカしかいねぇのな。京南潰すまではって、それがずっと続いてる」
「で、それが何だよ」
怪訝そうな顔でボスザルが輝彦さんを見る。
「酷いもんだった。所構わずやり合うからな、警察にもしっかりマークされ、でも抗争は止まらなかった」
そこで一旦言葉を詰まらせ、輝彦さんは持っていたビールを一気に飲み干した。
俺もボスザルも、ただ黙ってその様子をみつめる。
「巻き込んじまったんだよ、一般人を」
タバコをまた灰皿に押し付けると、輝彦さんはそう言って深いため息を吐いた。
「妊婦だった」
「……………」
「……………」
その重い言葉に、俺は息を飲んだ。
ボスザルも、黙って手元に視線を移す。
「一気に冷めたね、俺は。何やってんだって。傷害で仲間は何人も鑑別に入り、挙げ句に殺人。なんとか止めようと思った。けどもう、誰も俺の言う事なんか聞かなくなってた」
ボス失格だったよ、そう呟いて、輝彦さんは持っていた缶をぐっと握り潰した。
それを流しにガンッと捨て、ボスザルをじっと睨む。
「それでも俺は体を張って止めた。橋北の頭に土下座までした。あらゆる屈辱を受け、なんとか停戦に持ち込んだんだ」
「なのに、また始まろうとしてる」
不意に口を開いたボスザルを、俺はハッと凝視した。
つまりそれは…。
「多少の小競り合いはあったかも知れないが、大規模な抗争はなかったはずだ。約束は守られてたはずなんだよ」
「俺に言われても知らねぇよ。それに、今のバカ高は統一されてねぇ」
「お前が頭じゃねぇのか」
「さあ、勝手に周りがそう言ってるだけだ。俺は自分が頭だなんて一度も思った事ねぇよ」
いちいち否定すんのもめんどくせぇ、そうぼやくボスザルを見て俺は驚いた。
じゃあボスザルってあだ名改名しないといけないじゃないか。
違う違うそこはどうでもいい。
だったら誰がボスザルなんだ。
「昨日、ダチが橋北のバカにやられた。頭殴られて、大した怪我にはなんなかったけど、一緒にいた奴が相手二人ボコったんだ」
ボスザルはそう言ってため息を吐いた。
そして俺は、そのダチがゴンタさんだと瞬時に判断する。
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