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同時に、室内がしん、と静まり返る。
あんなに騒がしかった教室が、一気に静寂に包まれた。
そして声が届く。
「B組の皆さんおはようございます」
先生か、と思うも、入学してから今まで担任がコイツらを大人しくさせた試しはない。
てか不可能だ。
可能だとすれば真弓の魔神化のような圧倒的な力のみ。
閉じていた瞼をそっと押し上げ、俺は前方に目をやった。
「この中で腕っぷしに自信のある方挙手願います」
教卓の前にはオレンジ色の綺麗な髪をした誰かが立っていた。
制服を着ている事から生徒だと分かったけど、見た事のない顔。
誰も何一つ言わない動かない様子を見て、オレンジはぐるっと室内を見渡した後再び口を開いた。
「いないの?じゃ今日からB組の君達は俺らの下僕ね」
ニッコリ笑うオレンジに、皆の目が点になるのを感じた。
ついでに俺も寝不足だった頭が、素晴らしくクリアに。
「あ、俺G組の佐田雄大って言います。以後お見知りおきを」
またニッコリ笑うと、さた…、いや、サタンは軽く頭を下げた。
まだ皆はフリーズしている。そして俺はやれやれと視界を遮断した。
目を合わせてはいけない、その本能に従った結果のものである。
どうして誰も何も言わないのか。
最初は突然の出来事に理解不能という雰囲気が漂っていたが、今では状況を理解しているものの何も言えない、といった空気に包まれている。
逆らわないのが賢明、周りからそんな考えが読み取れた。
言われた事に不服ではあるけれど逆らう勇気もない。
と言った感じか。
サタンもそれに気付いたのか、また口を開いた。
薄目で様子を伺ってみる。
「塵も積もれば~でね、別にいいよ、君ら皆で異議あり!って来てもらっても。ただし」
一度口を閉じ、サタンはポケットから何かを取り出した。
それは黒い、長さ15センチ弱の小さな棒のようなもの。
そしてそれを右手で握り直し、持っている方の腕を上に持ち上げると思いっきり下に振り下ろした。
瞬間、ジャキっと音がし、15センチ弱だったその棒の先端からシルバーに光る長いものが飛び出す。
そしてあっという間に50センチ程の金属棒に変化した。
「ハンデは頂きます」
どっかで見た事がある。
金属棒を薄目で見ながら記憶を辿った。
そうだ、ゴンタさんを殴ったヤツも確かあんなのを持ってたな。
不良ってのはやっぱり何かと危ない武器を違法に所持してんのか。
「どうぞ?」
かかってこいやと言わんばかりにサタンが両腕を広げる。
漂う空気がまた一変したのを俺は感じた。
もう誰も、不服をあらわにはしていない。
それは諦めという名の服従だった。
「あれ、どしたの?来ないの?ここで異議唱えとかないと後からは受け付けないよ」
サタンはまたぐるりと室内を見渡した後、誰も自分を見なくなった事に満足気に笑みをこぼし、持っていた金属棒の先端を垂直にダンッと教卓に叩きつけた。
ジャキ、っと音をたて、金属棒はまた小さな黒い棒に姿を変える。
それをポケットにしまうと、
「あ、俺がボスじゃねぇから。また招集かけるんでよろしくねー。それからここにいないヤツいたらちゃんと後から説明しといて」
そう言ってやっと教室を出て行った。
しばらくシン…としたままの室内から、ポツポツと声が広がり始める。
「マジかよ…」
「佐田ってあれだろ、頭イっちゃってる狂犬とか言われてるヤツだろ」
「先輩らも手ぇ出したくない相手らしいじゃん」
「俺ら下僕かよ」
「アレじゃん、まずは一年の統一が目的なんじゃね?」
「て事は今隣のC組か?」
そう言って誰かが廊下を覗いた瞬間だった。
ガタン、とか、ウォー、とか、ざけんな、とか、シネ、とか、バリン、とか、ガシャン、とか、ぐあ、とか、ぎゃあ、とか、
うん、何か、異世界の音が俺の涙腺を根こそぎ破壊してくれました。
「C組も血の気多いヤツ結構いるもんなぁ」
その尋常じゃない音に、クラス全員が廊下を覗き込む。
「あーあ、スゲー乱闘じゃん」
「佐田も警棒一本じゃ流石に無理じゃね?」
……………………。
ううっ、帰りたい。
平和な家に帰りたい。
んでもう一生外に出たくない。
引きこもり万歳で生きていきたい。
「あ、止まった」
「佐田血祭りか?」
「うわ、ちげーよ、佐田ピンピンしてんじゃん」
「次D行ったぞ」
「マジかよ…、スゲーな」
逆らわなくて正解だった。
皆の気持ちが一つになったのを感じた。
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