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「許してやってくんないかなぁ」
「え…」
「あれでも色々頑張ってたんだよ、アイツ。ユースケは自分を受け入れないって分かった時から」
それはきっと、普通の告白とは駆け離れてるようなあの告白とか、屋上に呼び出して一緒にお昼を食べようとした事とかを指してるんだろうと思った。
傷付けられたのにご飯作ってくれたり優しく接してくれたのも、ハルさんの言う頑張りだったのかなって。
でもそれは、俺を好きだからじゃない。
子犬みたいな俺が欲しいから。
あの時の好きは、告白のマニュアルに従っただけの言葉にしか過ぎない。
動機がそれじゃあ、嬉しいなんて到底思えなかった。
「付き合えとは言わないから、たまにじゃれてあげて欲しいなぁって」
じゃ、じゃれ…?
「ああごめん、遊んでやってって意味」
もうなんか、普通に犬扱いしましたよね今。
うーんと唸る俺を見て、ハルさんはお願いのポーズを取った。
ああ、そこまでされたら断れない。
「わ、わかりました」
「マジ?ありがと、拳聖も喜ぶよ」
じゃれるだけでいいのか。
てか、もう俺なんか別にいらないんじゃないの。
次また探せばよさそうなもんじゃん。
子犬みたいに可愛い子なんて、世の中に溢れ返ってるよ。
「じゃあ早速なんだけど、届けてくんないかな、これ」
はい、と手渡されたのは何の飾り気もない黒の光沢を放つ携帯電話。
昨日クラブに忘れていったんだと、ハルさんは付け足した。
いや、早速の意味がわからない。
「住所はここね」
胸ポケットからペンを取り出すと、ハルさんは俺の手の甲にスラスラとペン先を走らせた。
おい。
「独り暮らしだからアイツ。今は女がいるかもだけど」
あー見たくないかもその光景。
しかし手に住所まで書かれてしまったんだから今更断れない。
てかいつ承諾したんだって話さね。
「頼むよ、名犬ユースケ!」
「は、はぁ…」
やっぱ犬扱いしてんじゃねーか。
ため息を吐いて立ち上がった。
この辺か。
手の甲を見ながら道を歩く。しばらくして見えたレンガ色のマンションにゆっくり近付きながら、俺はまた手の甲を確認した。
これだ。
ボスザルの住処は至って普通のマンションで、輝彦さんのマンションからもそんなに離れていなかった。
三階まで階段を登りながら、俺の心臓が少しずつ速度を上げ始める。
女がいる、と思うだけで吐き気がしたし、胸が苦しくなった。
扉の前に立ち、浅間の文字を見て一気に心臓がバクバクと高鳴りを見せる。
体中が同じように脈打つのを感じながら、俺は震える指でチャイムを押した。
「………………」
反応はない。
それから更に5分待ったが反応はないまま。
もう一度押して見た。
ピーンポーン、と中から音がする。
しばらく待った。
しかしまた無反応。
今度は二回連続で押してみた。
「……………」
無反応。
よし、留守だ。
帰ろう。
心なしかホッとする胸を抱えて、俺は来た道を戻った。
そして階段に足をかけたその時。
「おい」
背後から誰かに呼ばれ、俺の心臓が瞬く間にフル稼働を始める。
出た。
ボスザル…。
しばらく固まった後、ゆっくりと首を捻る。
「何でお前がここにいんだよ」
ボサボサの頭に、下はハーフパンツで上は裸。
その首筋にキスマークらしきものを見付けた俺の頭が、段々変に冷えていくのがわかった。
そんな格好のままサンダルで外に立ち、寝ていたのか眠そうに後頭部に手をやるボスザルに、俺はゆっくり近付いていく。
「は、ハルさんに頼まれて…」
「ハル?」
「携帯、昨日忘れてったからって…」
ポケットから預かっていた携帯を取り出し、ボスザルに差し出した。
「何でお前に頼むんだ」
怪訝そうな顔でそれを手にすると、ボスザルはそう言いながらじっと俺を見据えた。
「し、知りません、頼まれただけなんで…」
その視線から逃れるべく、下を向く。
ドキドキと心臓が痛い。
均整の取れたその裸体に、目のやり場に困った。
「ゆ―」
名前を、呼ばれると思った。
それより早く、部屋の中から高い声が聞こえてくる。
「拳聖ー、シャンプーないんだけどー!」
女だった。
シャワー中なのか、耳を澄ますと水の弾ける音がする。
チッ、と舌打ちするボスザルに目を背けたままで、俺は帰りますと、踵を返した。
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