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⑥
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心臓はまだドキドキと脈打っている。
別に引き止めもされず、俺の足はスムーズに階段に向かっていく。
そして、降りようかという時に、また高い声で違う女の声がした。
何人か持ち帰り。
ハルさんの言葉を思い出す。
涙が出た。
よくわかんないけど苦しくて涙が出た。
単なる嫉妬なんだと思う。
だけど、涙が溢れて止まらなかった。
「何で俺は、犬扱いなんだよ…っ」
ああでも、仕方のない事なんだ。
俺みたいな何の取り柄もない凡人を、理由もなくボスザルが相手にするわけない。
単なる慈悲だった。
やっぱり勘違いだった。
その事実は、俺を深い闇の中へと葬り去る。
走るように階段を下り、外に出た瞬間俺はうずくまって泣いた。
痛すぎて泣いた。
胸が痛くて、息が苦しくて。
声を殺して泣いた。
こんなにもボスザルが好きだった事実に、ショックを受ける。
どうにもならないのに、何でこんなにも好きになってしまったのか。
苦しい、苦しくてたまらない。
考えたら初恋かも知れないと、俺はまたショックを受けて。
制服の袖で涙を拭いて、立ち上がった。
「祐介」
同時に、また背後から声をかけられて、ビクッと体が揺れ動く。
振り返ると、息を切らせたボスザルが立っていた。
「何で泣いてんだ」
問われて、うつむく。
何でもないと帰ろうとしたら腕を掴まれた。
その力強さに一瞬戸惑うも、逆らわずに俺はまたボスザルと向き合って立った。
「礼、いい忘れたから」
「…………」
「ありがとな」
「いえ…」
苦しい、見れない。
ボスザルをもう見れない。
見たら、想いがまた一つ二つと増えていく。
俯いたまま、その破片さえ視界にうつさないようにと、俺はゆっくり目を閉じた。
「祐介」
「はい…」
「昨日は、悪かったよ。変な事言って、ごめんな」
どうしよう。
また、泣きそうだ。
「俺は…っ」
「ん」
「犬じゃない…」
「それ、前も言ってたな。動物がどうとか」
なんだよ、やっぱり覚えてたんじゃないか。
ボスザルが飲み潰れた日に、言った台詞だ。
動物なんかじゃないと。
「なんなんだよ、犬やら動物やらって」
「それは…っ」
あんたが一番よくわかって……ないのか、そっか、そうなんだよな。
「俺が、子犬みたいだから、欲しいだけなんですよね」
「は」
「俺に構うのは、俺が犬みたいだからじゃないんですか。犬としてみてるからじゃ…」
言った後、俺は虚しくなって口を閉じた。
目を開け、ボスザルのサンダルを見詰める。
しばらく何かを考えるように黙った後、ボスザルは溜め息を吐きながら俺に言った。
「あのな、犬に舌突っ込んでキスしたり、ヤリてぇとか思ったりしねぇよ俺」
「……………」
「お前が好きだって、言ったと思うけど」
「……………」
そうだ、確かに初めて会った日ディープなキスをされた。
あと、俺を食べようともしたっけ。
「祐介」
「………はい」
「お前を犬扱いなんかした事ねぇよ。ただ、子犬みたいだと思った事はあるけど。可愛いから」
「…………」
「ムリか、やっぱり」
「…何がですか」
「俺に飼われるの」
プチン、と耳の奥で音が聞こえた。
「だ、だから!好きな相手に何で飼いたいとか言うんですかおかしいですよね!?普通付き合ってじゃないんですかそしたら俺だって普通にはいって言えるんですよ!」
落としていた視線は目の前の男に。
俺は不満を爆発させた。
驚くような顔のボスザルを無視して、俺は更に続ける。
「それに、二回目の告白は1ヶ月後の約束ですよね…」
「あ、まぁ…」
「だ、だから、1ヶ月後にまた、聞かれたら返事します。はい。あの、帰ります。お、追いかけないで下さいね…」
段々と顔が赤くなっていく俺を、ボスザルは口元に手を当てながら見詰めている。
俺はいたたまれなくなってそのまま逃走した。
ひと言、
「その間、ほ、他の人とええええっちな事しないで下さい…!」
言い残して、風のように去った。
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