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③
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よく冷えたグレープフルーツに、マスカット。
ガラスの器に盛られたそれに手を伸ばすと、俺はクマさんから質問を受けた。
「祐介は、拳聖さんと付き合ってるんですか?」
「あ」
ビックリし過ぎて手を上げた瞬間手にしていたマスカットが後ろに舞った。
スポン、てね。
しばらくして、ぽちゃん、と、ものすんごく嫌な予感のする音が聞こえる。
汗を流しながら固まっていれば、誰もいない俺の右隣から誰かがコンッとコップをカウンターに置いた。
置かれたコップの中にはマスカットが臨終している。
「っ!!!!」
やっぱりか。
声にならない声で悲鳴をあげながら、俺は土下座でもして謝ろうと席を立つ。
そんな俺の肩をそっと押さえつけまた座らせると、ボスザルはモヒカン頭のその男に声をかけた。
「悪かったな、真城」
「いえ、とんでもないです。大丈夫ですから。クマ、変わりくれ」
真城と呼ばれたモヒカンはいたく恐縮しながら、変わりの飲み物をクマさんから受け取るとまた後ろのボックス席へと戻っていく。
助かった…。
ほっと息を吐くと、ボスザルに頭をくしゃりと乱された。
「ここにはお前を傷付けるヤツはいねぇから、安心しろ」
「あ、拳聖さん。千波からのメール、転送しときました」
「ん」
なんだかよくわからないけど、とにかくまぁ、肩の力は抜いてもよさそうだな。
「クマも余計な事聞いてんじゃねぇよ」
「すみません、だって前に拳聖さんが―」
気になるその続きは聞く事ができなかった。
お待たせ、と奥から万智さんが出来上がった料理を持ってくる。
美味しそうなその香りに、クマさんの言葉も忘れついよだれが出そうになった。
「拳聖はこれが好きなんだよな」
「これ、ナシゴレンですか?」
「言っとくけど、俺が作ったのは辛いぞ」
確かに、赤々としてて辛そうだ。
目の前に置かれたそれを、俺は添えてあったスプーンで一口食べてみた。
「…………………かっ…、…こほっ」
食べてる時はそうでもなかったのに、飲み込んだ瞬間喉に焼けるような痛みを感じてむせこむ。
ボスザルはそんな俺を見て笑いながら、平気で一口二口と食べていた。
「悪いな、一緒だっていうから味付けも一緒にしちまった。本当はそこまで辛くないんだけどな、それは拳聖用に辛くしてあんだ」
涙目で咳をする俺に、万智さんは申し訳なさそうに片手でごめんのポーズを取った。
辛いの好きなのはわかったけど、辛すぎ…。
残すのも気が引けたので、変わりを作ってこようとする万智さんを引き止め、俺は頑張って完食した。
胃に穴が空きそうだ…。
お腹も満たされ、まったりデザートタイム。
俺用にと、紅茶とケーキを万智さんが出してくれた。
ボスザルは軽いつまみと水割りで。
そしてその話しは始まった。
「あの、三年の人、潰したって本当ですか」
恐る恐る訪ねる俺に、ボスザルはあっさり、
「潰した」
と答えた。
「あの、そうなったのって、その、俺のせい…、だったり、するんですかね」
ケーキをつつきながら、視線は手元に。
ボスザルはしばらく間を取ってから、口を開いた。
「お前をダシにされなくても、あの要求には従った」
「え…」
無意識に目がボスザルに向いた。
「意外か?」
驚きを隠せない俺に、グラスを揺らしながらボスザルが口元を歪める。
意外ですよ、そりゃ。
だって、無条件で誰かに従うようなタイプじゃないって思ってたから。
「一年の木島尚吾。泣き喚くガキも黙る死神のトップ」
「それ…」
「何で知ってるかって?一応ここら一帯のチーム情報は把握してる。危ないヤツは、前持って知っとく必要があるからな」
今回みたいに、とボスザルは残り少ない水割りをぐいっと飲み干した。
「やり合っても負けると分かってる相手は最初から相手にしない。それは生き残る為のルールだろ?」
「はぁ…」
「だから要求をのんだ。向こうはお前をエサにした、って思ってるだろうけどな」
そうなんだ。
なんか、ちょっと、残念だったりする俺は最低かな。
「ま、最初はシカトするつもりだったけど。手紙の最後にあった木島の名前を見て考えを変えた」
「……………」
「もちろん、一番の理由はお前を守る為だったけど」
「別に…」
まるで、そう言って欲しいんだろ、とでもいいたげな口振りに、俺はフイッとボスザルから顔を背けた。
何だ俺、拗ねたガキみたいにカッコ悪い。
半分になったケーキを丸飲みした。
そんな俺の髪をまた優しく撫でた後、ボスザルは低い声で呟くように言葉を漏らす。
「一つ気になんのは、お前をダシにすれば俺が動く、って事を何で知ってるか、だ」
ケーキでパンパンに膨れたほっぺを何とかしようと動かしていた俺の口が止まった。
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