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真夜中の疑問①
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沸点を軽々超えてしまった俺の脳ミソは、素晴らしいほどに全ての動力を体のいかなる場所からも奪い去ってくれた。
もしかしてあの日もこうやって運んでくれたんだろうか。そんな事を考えながら俺はボスザルにおんぶされてマンションまで帰ってきた。
「部屋まで連れてく」
「い、いいです、あの、もう歩けます…」
エレベーターの前でやっと足を地面に下ろす事が出来た俺は、部屋まで着いてこようとするボスザルを両手でやんわり制した。
「こうさせちまったのは俺だからな、最後まできっちり面倒みる」
「だ、だから、大丈夫ですから、本当に…」
部屋まで、いや、ベッドの中まで連れてくと言ったなんとなくやらしさを感じるその心遣いに、最後までの最後が一体何を指してるのか不安になった俺は全力でご遠慮しますの態度を取った。
挙げ句にはパジャマにまで着替えさせてやるとか言うもんだから、俺の顔からまた湯気が上りそうになる。
「て、輝彦さんも帰ってると思うし…」
ポケットから携帯を取り出し、時間を確認するふりをして俺はぬけぬけと嘘を吐いた。
今日は帰って来ない。
知られたらまた面倒みるとか朝方まで食い下がってきそうだから、絶対に知られてはならない。
時刻は午後十時を回った辺りだった。
「そんな警戒しなくても、別になんもしねぇよ」
わたわたとする俺が可笑しいのか、軽く笑いながらボスザルに髪を撫でられ、なんとなく恥ずかしくなって下を向く。
これじゃまるで、送り狼を警戒してる女の子みたいじゃないか。
「そ、そんなつもりは…」
「付き合うまではなしだもんな」
「…………」
「女ともしねぇよ」
「え…」
反射的に目線が上がった。
あんな身勝手な要求を、まさかのむと…?
付き合うまでは、誰と何をされても仕方ないと諦めるつもりでいたのに。
目の前で優しく笑う男に、俺は何も言葉が出てこなかった。
「俺の知らないとこでお前が泣くのは堪えられねぇ」
「…………」
「しかもそれが自分のせいとか、有り得ない」
「…………」
「お前が1ヶ月後っていうんなら、それに従う。大人しくしてっから」
その変わり、と。
近付く口先は、俺の口先へ。
触れるか触れないかのその僅かな距離に、俺の心臓がまた悲鳴をあげる。
「晴れて付き合う事になったそん時は、覚悟しとけ」
その妖しく光る眼に、喉がコクリと上下した。
そして唇の代わりに触れたのは、その長い指先で。
「この口に、絶対言わせてやる」
「………」
「抱いてくれ、ってな」
「…!!、ああああのだから…っ!」
言いませんから一億積まれても言わない一兆積まれても言わない地球最後の日を迎えても言わな…………………………………そん時は、言おうかな…。
って!!!!!!
「絶対言いません!!」
なんてとんでもなく大胆な事を言うんだろうか。
くらりと目眩を覚えた。
その話しはさっきの店で終わったとばっか思ってたのに、また蒸し返しやがってこのやろうめ…。
みろ、また顔がぼうぼうと熱くなったじゃないか。
「祐介」
「だから言いませっ―……………はい」
熱く真剣な眼差しに気付いて、俺は息を飲んだ。
近付く顔はそのままで、今度は指じゃなく、柔らかいものが閉じた口に触れる。
香るそのアルコールの匂いに、酔いそうだった。
「お前の気持ちも、そん時に聞かせろよ」
「………」
「今聞きたいけど、聞いたら多分、待てなくなる」
「……はい」
「何で1ヶ月後なんだっつーお前の焦らしプレイにあえて付き合ってやるよ」
「…………」
じ……焦らし、プレイ…。
「あの、あのっ、そんなつもりは―…ん」
言いかけた言葉を、その口に吸われた。
「わかってるよ。打算じゃねぇ、天然って事はな」
「て…?」
計算高い女より、質が悪い。
呟いて、ボスザルはまた俺に軽くキスをした。
まだ付き合ってもないのに、まだ俺は好きだなんて伝えてもないのに、この人は一日に何回キスをするんだろうか。
伝えようと思っていたけど、待てなくなると言われてさっき取り止めたのに。
こんなんじゃ、言いたくなってしまう。
さっきからずっと、胸がきゅうきゅう鳴いて痛いんだ。
この人が好きだと、叫んでる。
「明日、一緒に昼飯食うだろ」
「え…」
「真弓がいるからムリか」
真弓…。
ああ、今その名前は出して欲しくなかった。
嫌な事を考えてしまいそうになる。
「はい…」
答えると、ボスザルはため息を吐いて俺から離れた。
「祐介、疑いたくない気持ちはわかるけどな、気を付けろよ」
「…………」
ボスザルは、確信してるんだもんな。
そんなふうに言われてしまっても仕方ない。
だけど俺は…。
「この話はこれで最後な」
暗くなっていく俺に気付いたのか、ボスザルはそう苦笑して、俺の髪をくしゃりと撫でた。
そしておやすみと、去っていくその背中を見詰める。
ああ、この1ヶ月間を、俺は堪えられるだろうか。
次にボスザルを目にしたら、言ってしまうかも知れない。
ドキドキといつまでも高鳴っている心臓を掴むように、俺はぎゅっとシャツを握りしめた。
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