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同時に、俺の横に位置したドアがゆっくりと開く。
あの世を垣間見た気がした。
「お前ら、勝手に入ってどういうつもりだ」
ここはVIP客専用の個室だ、と、黒いスーツを着た若いいかにもなお兄様が低い声で大魔王をたしなめた。
「あ?VIPとかしらねぇよ、客は客だろ。客に格付けしてんじゃねぇよバカが」
ひぃ…………!!!!
な、ななななんて命知らずなんだこの人は!!
もしかして本当に、
俺無敵の大魔王だから。
とか思ってたりしませんよね!?
病院行きますか今すぐに!
ええ勿論精神科ですけど!
「お前、ふざけてんのか」
案の定お兄様の眼光がそれはもうピカリン!…じゃ可愛い過ぎるか、そう、ギラッと光る。
しかし大魔王は動じない。
本気で自分が大魔王と思い込んでいるから動じないのだろう。
でなければただのあほだ。
や、でなければでなくてもあほだな。
「ケチくせぇ事言わねぇでさ、ちょっとぐらいいーじゃん」
「今すぐ出ろ。もうすぐここに客が来る」
「だからさぁ、俺らも客だっつってんじゃん、お兄さん」
すみません、俺ら、とか、らで俺を巻き込まないで下さい。
俺は無関係です、勝手に連れて来られただけです。
開いたドアの横、俺は滝のように汗を流しながら微動だにせず直立していた。
不法侵入したくせに、なんてふてぶてしい態度を取るんだろうかこの人は。
しかし、印籠でも見せたくなるような気持ちになるから不思議だ。
ひかえおろう!
とか言って。
ああ、大魔王に後光さえ見えるような気がしてきた…。
そう、何度か瞬きをした時だった。
「何やってんだ」
お兄さんの後ろから、多分来るとか言ってた客なんだろう。
低い声が室内に響いた。
………………。
なんか、聞いた事あるような声だな。
チラリと黒目だけを動かして右隣を見てみた。
お兄さんを押し退け、入ってくるその一名とバチっと目が合う。
……………………。
で、出たっ…。
デコピン!!
そしてその脇から数人がわらわらと中に入ってくるのが見えた。
「先客?おい新谷、今日は俺達が使うって予約してあったはずだよなぁ」
どういう事だ、と入ってきたうちの一人がそうお兄さんに凄んだ。
すみませんそのお兄さんは何も悪くないんですあの大魔王がですね…。
と胸の内で息巻いてみる。
新谷と呼ばれたお兄さんは、慌てて俺もわからないんですと首を振った。
デコピンは眉を寄せ俺をじっと見据えたままで、そして部屋の中には俺と大魔王と新谷さん、デコピンと他には四名の強面な方々が収容された。
「お、お前ら早く出ろ、今からここはこの人達が使うんだ」
慌てたままで、新谷さんが大魔王と俺を交互に見ながらドアを指差す。
間違いなく悪いのは俺達で、だから今すぐにでも部屋を出ようと俺は大魔王に必死でアイコンタクトを取ろうとしたが、大魔王は俺に見向きもしない。
デコピンからの視線を顔中に感じながら、何か言われる前にもう俺だけでも逃げようと俺はドアの方に体の向きを変えた。
「なぁんか怖そうなお兄さん達いっぱいだねー」
いそいそと帰りますと蚊の鳴くような声でデコピンに告げ軽く頭を下げた俺は、聞こえたその声にサッと顔が青ざめる。
関わりたくない、もう大魔王と金輪際関わりたくないだからほっといて逃げよう、と思う反面、世話になってる叔父の大切な人だから危ない場所に置き去りはやっぱりダメだ、といった、悪魔と天使の戦いが俺の脳内で勃発した。
「誰だよお前、我が物顔で居座りやがって。ここはチームの人間しか入っちゃいけないのよ、お姉さん」
新谷さんに凄んでいた男が、大魔王にゆっくり近付きながらからかうように言葉を吐く。
お姉さんとバカにされた大魔王は、しかしキレる様子もなく、その男に向かって言葉を吐き返した。
「なあなあ、今からチームのミーティング?俺も混ぜてよ」
その予想だにしなかったわけのわからないキチガイ発言に俺の顎がガコンと下に下がる。
この瞬間、悪魔と天使の抗争は、圧倒的な勢いで悪魔が勝利をおさめた。
帰ろうか。
皆が大魔王に気を取られてるうちに。
開けっ放しだったその出口を、そっとくぐる。
が。
「ダチを置き去りはよくねぇな。責任持って連れて帰れ」
やめて下さいよダチじゃありませんよあんなキチガイ大魔王。
とは言えず、デコピンにガッツリ腕を掴まれ、俺はまた泣きながら中に戻った。
大魔王は一人ソファにふんぞり返り、上から自分を睨み付けている男にダルそうに爪の先を弄っている。
何をやっているのですかアナタは。
バカなの?
「さっさと出ろ。力付くで放り出されたくなかったらな」
男も呆れ果てた様子で、大魔王に向かってため息を溢している。
もう実力行使でお願いします。
「今もやっぱこの辺て死神がまとめてんの?」
しかし大魔王が唐突にその名前を出した瞬間、辺りが一時しん、と静まり返った。
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