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⑤
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僅かに開いたドアを閉めようか迷ったが、気付かれて中へ戻されてしまっては折角の苦労も水の泡になる。
閉めない事により何か重大な問題が発生するわけでもないし、と、俺はそのままにして階段のある方へと足を向けた。
携帯で時間を確認すればもう日付が変わってしまっている。
明日起きれるかな、とあまり好んで夜更かししない俺は寝不足の辛さを思いため息を漏らした。
早く帰って寝よう。
そう思いながら階段へと続く扉に手をかける。
そして開けた瞬間思わず目を閉じてしまう程の大音量に再び襲われ、たまらずに俺は両耳の穴に指を突っ込みながら階段を駆け降りた。
ひしめき合う人混みの中、腰を低くしながら出口を目指して歩いていく。
しかし何故かカウンターにたどり着いてしまった俺は、そこに立っている人物に何気なく視線をやり、そして目を疑った。
中にいるバーテンらしき人に何かを聞いていたらしく、さっき俺が駆け降りて来た階段を指差した後片手を上げお礼を言ってこっちに歩いてくる。
そのまま俺の前まで来てやっと俺に気付いたのか、目が合うなり輝彦さんはぎょっとしたように目を見開いた。
何かをしゃべっているようなんだが、いかんせん地面さえ揺れそうな程のこの音量。
わかんない、と耳から指を抜き耳を向ければ、腕を引っ張られて外まで連れ出された。
急激な静寂が、鼓膜にキン…とした空気の音を響かせる。
「祐介、何でお前がこんなとこにいるんだ」
耳の穴をかっぽじる俺を、輝彦さんは腕を組みながら恐い顔でズイッと覗き込んでくる。
不良扱いされてはたまらない。
俺は大魔王にムリヤリここに連れて来られた事を話した。
「ったくあのバカは…」
「輝彦さんは何でここにいんの」
「真生を迎えに来たんだよ」
「あれ、連絡あったんだ?」
「そうじゃない。この店のオーナーとはちょい顔見知りでな、前に真生を紹介した事もあるんだ」
「ふーん」
「アイツも昔の名残でまだ危なっかしいとこがあるから、変なとこで見掛けたら連絡くれって頼んであったんだよ」
「あー、今なんか、チームのミーティングとやらに参加してますけど」
「だから来たんだよ。危ない連中と接触してるって聞いてな」
成る程。
会社から飛んで来たんだろうか。
スーツ姿のままで、ポケットからタバコを取り出すと輝彦さんは口にくわえて火をつけた。
煙を吐き出し、目頭を押さえながら乱れていた髪を更に手でくしゃりと乱す。
お疲れのようですね、叔父様。
「お前はここで待ってろ。真生を連れ出したら一緒に帰るぞ」
長いままのタバコを、ポケットから取り出した携帯用の灰皿に押し潰して消すと、輝彦さんはまた店の中へと姿を消した。
そして1人ぽつん、と路上に佇む。
真夜中のクラブハウス近辺。
出没するのは俺とは真逆の人種ばかりなわけで。
迷子なの?なんて聞かれてもおかしくないような容姿をしている俺は、とりあえず補導されない事よりも絡まれない事を先に祈った。
早く帰って来いと、輝彦さんを心の中で呼びつける。
誰とも目が合わないように、俺は地面にじっと視線を張り付けた。
しかし。
目が合わなければ絡まれない、なんて保証は当然ないわけで。
「なあ、金貸してくれよ」
いきなりのモロなカツアゲに、俺の頭がスパークした。
お金、いくらあったかな、なんて考えながら財布を取り出し中を確認する。
素直な俺の行動に気をよくしたのか、金髪坊主の男は俺の肩に手を回し、一緒になって財布を覗き込んできた。
「何だよシケてんな」
財布にあったのは僅か二千円ほど。
それを全て抜き取ると、金髪坊主は10年後に返すとかふざけた台詞を吐いて俺に手を振った。
返していらないから二度と俺の視界に入ってくるなハゲ頭め!!
くそう、まんまとカツアゲされてしまったではないか。
これも全て大魔王のせいだ。
後から大魔王に返して貰おう。
うん、輝彦さん経由で。
遠ざかっていく金髪坊主の背中をありったけの恨みを込めて睨み付けていた俺は、今度はその金髪坊主が数人にカツアゲされるのを目にしてほくそ笑んだ。
ざまぁだコノヤロー。
因果応報ってヤツですね。たっぷり味わえバカモノが。
しかし、カツアゲした連中が何故か俺の方へと近付いてくる。
ちょ、待って下さい。
俺もうお金ありませんよ。
ビクビクしながら、けれど逃げ出す事も出来ずに、目の前まで近寄ったその数人に俺は無言でどうぞと空っぽの財布を差し出した。
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