アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
⑥
-
「なあ、お前みたいなもやし野郎の家って大概金持ちとか相場が決まってんだよ」
「友達いないわ引きこもりだわイジメられっこだわ、大体そんなヤツは金持ってたりすんだよなぁ」
「そうそう、金でしか友達買えない可哀想なぼくちゃん、だからさっさと家から金持ってきな」
………………………。
何か物凄く偏った脳ミソに出会ってしまったんですが、すみません、うちお金持ちなんかじゃないですよ。
それに友達もいるし引きこもりでもないしイジメられっこでもないです。
連れて来られた人気のない路地裏。
壁に追いやられた俺の目の前には二匹の野良犬共。
汚く傷んだ金髪は重力に逆らうようにアチコチ向いていて(ボサボサって意味)、もう一匹は捨てられたストレスなんだろうか、毛がなかった。
よっぽどのストレスに苛まれてるんだろう、光る頭に俺は静かに同情した。
もう一匹はお腹が空きすぎて動けないんだろうか。
こちらに背中を向け、離れた場所に座り込んでじっと足元に視線を落としている。
よく見れば足元のコンクリートのひび割れから雑草が生えていて、思わず、食べられないよそれ!草だから草だから!と教えたくなるくらい雑草をじっと見ていた。
や、ゲームセンターを飛び出してね、マンションまでの帰り道、あまりの羞恥心に転がってた石を思いっきり蹴っ飛ばしたんですよ。
そしたら狙った小石の横にあった小石とは到底呼べない直径3センチくらいの石を蹴ってしまいまして、えぇ。
綺麗に地面から飛び立ったその石を目で追いながら、ああ多分あの辺に落ちるなぁって目を細めながら予測した瞬間逃げたんですよね。
えぇ、いたもんですからね、落下地点に大きな小汚い野犬が三匹いたもんですから。
ああ、アレ当たるなぁって。
まるで狙ったかのようにクリティカルヒットしちゃうなぁって。
逃げたんですけどほら、俺亀ですから、うん。
普通に捕まえられちゃいまして今に至りますごめんなさい本当にごめんなさい。
謝っても簡単には許してもらえません。
「おい、さっさと取って来いって」
「バックレたらわかってんだろうなぁ」
「この辺歩けないようにしてやっからな」
「わかりましたこの辺は歩きませんあの辺歩きますそれで大丈夫ですよねすみません」
「ああ?あの辺てどこだよゴルァ無理に決まってんだろうが」
「ああああの辺もダメなんですかじゃあその辺歩きますすみません」
「だからよぉ、あの辺もその辺もこの辺もダメなんだよ!!ふざけてんのかテメーはゴルァ!!」
ひっ………!
怒鳴られ萎縮する。
ふざけてるわけないじゃないですかこっちは必死なんですよわからないんですかこのプルプルとした小刻みな震えが!!
上から押さえつけられてるような威圧感に、俺は思わずその場にしゃがみ込んだ。
すると離れた場所にいた野犬が、見ていた草は食べられないと判断したんだろうか、チッと舌を鳴らしながらこっちに近寄ってくる。
その野犬は、黒くチリチリとした髪を細いカチューシャみたいなもので後ろに流してあった。
「なあ、お前ら」
俺の胸ぐらを掴み俺を立ち上がらせていたストレス犬が、チリチリ犬に目を向ける。
「そいつ、ヤベーって」
手ぇ離せ、とチリチリ犬はストレス犬に顎で指図した。
それに対して腑に落ちないような顔で、ボサボサ犬がチリチリ犬に目を向ける。
「何だよ、ヤベーって」
タバコを吸い出したチリチリ犬に、二匹は顔を見合せながら俺から離れた。
チリチリ犬は煙をふっと吐き出すと、手にしていた携帯を二匹に差し出しす。
「そいつ、死神のボスのお気に入りらしいぜ」
「はあ?」
「コイツが?木嶋の?」
三匹の目が一斉に俺に向けられる。
んん?
そして携帯と俺を交互に見ながら、二匹はまた顔を見合せた。
「信じらんねぇ…」
「あの男、美形好きで有名だろ?何でこんなもやしがお気に入りなんだ」
「とにかく手ぇ出すな。下手したらうちのチームが潰される」
いくぞ、とチリチリ犬は歩き出した。
その姿を見ながらはっと思い出す。
何故今朝早く、わざわざ学校の屋上に出向いたのか。
色々と恥ずかしい思いをさせられ、すっかり頭から抜け落ちていたその目的を俺は思い出した。
そうだ、夜中に起こったあの不思議な出来事についてボスザルに聞きに行ったはずなんだ。
なのに、予想外の展開が立て続けに起きてすっかり忘れてしまっていた。
今のこの状態も、きっと夜中のそれと関連しているに違いない。
俺がデコピンのお気に入り?
ないない、それは絶対にあり得ない。
だけどチリチリ犬は確かにそう言った。
何故か携帯を見ながら。
そして残りの二匹も。
俺はじっと二匹を見つめた。
チリチリ犬はもう遠くまで行ってしまっている。
しかし、残りの二匹は何かを企むようにまだ顔を見合せていた。
そこに言葉はない。
アイコンタクトを取り、意思の疎通が成功したんだろう。
確かな目的を持ったその眼が、ゆっくり俺に向けられた。
.
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
74 / 301