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⑧
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ふと、目が覚めた。
目が覚めたけど目の前は何故か暗闇。
あれ、何でだ?と思ったけど、強くなっていた手首の痛みに全てを思い出した。
そうだ、拉致られてたんだ俺。
ああ、いかんいかん、緊張感もくそもない程に寝てしまったではないか。
体勢は座ったままで、傾いた頭の右側に固いものを感じる。
窓にもたれて寝てしまったのか。
そう体を起こそうとしたら、遠くからひそひそと囁くような声が聞こえた。
「アイツ…」
「爆睡してね?」
「今まで何人か拉致った事あっけど…」
「あんなに見事に爆睡してるヤツいなかったよな…、てかフツーできなくね?」
さすが木嶋のお気に、とかなんとか。
……………………。
今動いたらヤバいような気がしないでもない。
このまま起こされるまで寝たフリを決め込んだ方が賢い気もする。
気まずいというか居づらい空気に耐える勇気もなければ精神力も持ち合わせていない。
だからもう一度寝てしまおう。
まだ眠いし。
そしてまた体から力を抜く。
その時、どこからともなく虫の羽音がして俺の体が一気に強張った。
ぷぅーん、とかってレベルじゃないんだものだって。
蚊なんて可愛い大きさじゃないものだって。
ボッボッボッ、とかすんごい大きい音がするもの。
何枚羽あんのよってレベルだもの。
何枚かなければその巨体は浮かないよって大きさだもの。
絶対そう、間違いない。
く ま バ チ だ
ひっ…!!
そ、そうだ、死んだフリをするんだ。
くまってつくんだから熊の仲間だよなきっと。
だったらやり過ごす手段も同じはずだ。
だからやっぱり寝てしまおう。
ここはもう寝るしかない。
再び体から力を抜いた。
瞬間。
ピタ。
って…。
「こっ!!!!!!!」
ま、まままままつんだ祐介。ここで騒いだら熊に気付かれてしまう、コイツ生きてんなって気付かれてしまう。
か、顔に止まったくらいなんだ、刺される事を考えたら可愛いもんじゃないか。
顔を歩き回るその細い足の感触に、虫が大嫌いな俺はもう卒倒寸前だった。
ダラダラと汗が流れ、体もガチガチに強張っている。
早くどっか飛んでけよ!
って祈りも虚しく、顎から首へ、そして鎖骨からシャツの中へと入り込んだ瞬間泣き叫んだ。
「ぎゃああぁあ!し、死ぬっ、ムリムリムリムリムリ死ぬー!!」
鼻水ダラダラ、目に当てられた目隠し用の布もベタベタ。
体は意地でも動かさず、俺は発狂しながら助けを求めた。
「ちょ、何だよどうしたんだよ」
俺の尋常じゃない様子にビックリしたのか、離れていた野犬数匹の声が目の前といった距離で聞こえる。
俺は叫んだ。
「ぬ、脱がじて!!シャツ!シャツ脱がじてぇー!死ぬから死ぬから本当に死ぬってもうムリお願いじまず脱がじでぐだざいぃぃ!!」
学ラン着てなくて良かった、本当に良かった。
俺のその異常なパニックは、周りをも巻き込んだ。
とにかく脱がさないと死んでしまう、という危機感を植え付けられたんだろう男が、ボタンを外すという工程をすっ飛ばして、シャツの前をバッと一気に破くように開いた。
ブチブチ、とボタンの弾ける音と、もう二度と聞きたくないボッボッボッという羽音がほぼ同時に車内に響く。
そしてその声も、時を同じくして聞こえた。
「なあ、お前ら」
聞き覚えがあるなんてもんじゃない聞き慣れたその声に、暗闇の中ハッと神経が緊張を見せる。
「誰だよテメー」
「コイツ、京南の浅間じゃん」
やっぱり、ボスザル!
てか、何でボスザルがこんなとこ…って何処かわかんないけど…にいるんだ。
すぐにでも目隠しを取りたい衝動にかられた。
「常磐から連絡来なかったのか」
ボスザルの低い声音が、狭い車内に静かに響き渡る。
冷静な声なんだけど、でも何故か背筋がヒヤリとした。
「ああ?常磐さんから連絡なんてねぇよ」
「つか何でテメーがここにいんだよ」
今にも掴みかかっていきそうな程の荒々しい声で、野犬共が突然現れたボスザルに牙を剥く。
それは俺も聞きたいかも知れない。
「死神解散の条件をトップが飲んだ。だから人質を無傷で返すって約束なんだけどな」
「は」
「マジ?」
「すげ、マジ解散するとかあり得なくね…」
……………………。
え、ちょっと待って下さい?
俺を人質に取られてチームを解散って事は…。
!!!!!!!
お、俺って本当にデコピンのお気に入りだったんだ!?
うそ、ねぇ、何で?
いつから?
いつからそうなったの?
有り得ない事態に、俺の脳ミソは更なる混乱に陥った。
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