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弱虫の決意①
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死神解散の事実は、この街に存在する全てのチームに影響を及ぼした。
猛者共をまとめる存在が消失され、また、その脅威が失われ、街中では既に小さなチーム同士の抗争があちこちで勃発していた。
ボスザルの行き着けのお店に、元死神の主要メンバーとする面々が勢揃いしていた。
何故か俺も連れて来られ、背後の物々しい雰囲気に小さくなりつつ、クマさんがサービスしてくれた紅茶とケーキをカウンターで一人頬張る。
ボスザルが俺を連れ戻しに来たあの日から、今日で一週間。
あの日はあのままマンションまで送ってもらって、会話らしい会話もなかったように思う。
それからボスザルとの接触は途切れ、実は今日は一週間ぶりの対面。
またいきなりマンションに現れて、けれど無理強いする事はなく、前回同様俺に来るかどうかの選択権を与えてくれた。
その時、俺は迷う事なく即決した。
どうして誘われたのかは分からないけど、だけど、今は少しでもボスザルと同じ時間を共にしたかったから。
不安だった。
ボスザルに対してではなく、自分の気持ちに。
好きな人を恐いと思った事に対する罪悪感を、少しでも消したかった。
「常磐を頭とするチームが3日前に立ち上がったんですが、現在既に三次団体まで確認されています」
「常磐正二を頭とする一次団体ブラックバード、佐田雄大を頭とする二次団体黒蝶、三次団体についてはまだ詳細不明です」
「はっ、黒蝶?舐めてんのかアイツは」
苛々としたデコピンの低い声に、思わずフォークに刺したケーキをポロリと落とす。
やっぱりサタンは敵だった。
あの時車の中でチラッと聞いたから俺はあんまり驚いてないけど、デコピンからすれば裏切られたって腹が立つのも当然だろう。
あんなにイチャコラしてたもんなぁ。
まぁ、気持ちはなかったみたいだけど。
「佐田雄大、死神の頭とする尚吾さんを潰す為に橋北の頭、常磐が送り込んだ刺客。チームを遠ざける為に学校同士の問題としてケリをつけようと持ち掛ける。実際は、今回のように汚い手口で死神解散を目論んでいたと思われます」
「舐めてるよなぁ、絶対舐めてるよなぁ。俺を陥れて尚且つ利用とか、ねぇわ、マジない」
ふうっと、煙を吐くその力強さに、心底苛立ってるのがよくわかる。
背後の団体をそっと肩越しに盗み見れば、一人黙って酒をあおるボスザルと目が合った。
咄嗟にバッと顔を前に向ける。
ボスザルの正体を知ってからまともに言葉を交わしてないのもあって、何だかよくわからないけど、ボスザルが遠く感じてならない。
今だって、何で俺みたいな人間がこの空間に混ざって存在しているのか、凄く不思議で凄く居づらい。
というか、ボスザルとデコピンが並んで座ってる光景にも物凄く違和感を感じた。
まさか仲間だなんて、誰が想像しただろう。
あの屋上での茶番は、一体何だったんだ。
じっと手元に視線を落とし深く考え込んでいれば、クマさんの優しい声が不意に耳に届いた。
「拳聖さんが死神のトップという事実は、あそこにいるメンバーしか知らないトップシークレットだったんです」
クマさんに目をやりながら考える。
「それ、何か聞いた事あります…」
確か、C組の守本が言ってたような。
幹部クラスの人間しか知らないはずだとかなんとか。
そうか、だからだったのか。
表向きはデコピンが死神のトップって事にしておかなければならなかったから、だからボスザルはあんな要求も飲んで、屋上でも引くしかなかった。
「狙われやすいですからね、影武者的な存在が必要だって、尚吾さんの提案でそのスタイルが決まったんですよ」
微笑みながら、クマさんはデコピンにチラリと視線を向けた。
デコピンにそんな忠犬的思考があったなんて、なんとも驚きだ。
紅茶を静かにすする。
そして、カップを置いた後俺はクマさんに質問した。
あの夜の不思議な出来事について、クマさんなら絶対知ってるって思ったから。
そしたら案の定、欲しかった明確な答えをクマさんはくれた。
「死神のネットワークを自由に使えるのは主要メンバーのみなんですが、拳聖さんが私情でそれを使用したのは初めてだと思います」
「私情…」
「祐介さんに、誰も手出ししないようにと。でも、それを逆手に取られて今回の事件に繋がったもんですから、あの日の拳聖さんのイラつきったら凄かったですよ」
言いながら、クマさんは苦笑した。
「あの、皆が俺を知ってたのは何で…」
「死神、それから傘下にいるチーム全ての人間に、メールで配信されたからです」
「メール…?」
「祐介さんの名前と顔写真。それを記載するだけで各チームのトップは理解できます。ボスの大事な存在なんだと」
「……………」
ボスの、大事な存在…。
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