アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
【第三部・慟哭】新しいお友達①
-
七月。
蝉の鳴き声もぼちぼち耳障りレベルになってきて、本格的な夏の到来を肌でも感じるようになった。
ボスザルとは約束通り一切連絡を取っていない。
電話やメールくらいって思ったけど、それが許されるなら最後のあの日、向こうからそう言葉にしてきただろうと思った俺は、電波での接触も半ば諦めていた。
学校でも、互いに会おうとする意志がなければ会う事なんてまずない。
俺はほとんど教室だし、ボスザルは屋上。
デコピンに遠慮なんて嘘でもしなくてよくなったから、屋上は今や一年と二年でごった返していた。
ますます行き辛くなったそんな場所に、たまたま通りがかりましたなんて事も有り得ない。
真弓も、ボスザルの情報通り学校を辞めていて、もうずっと連絡が取れない状態。
何回かメールも電話もしてみたけど、一度として真弓がそれに答えてくれた事はなかった。
好きな人とも、友達とも一切連絡が取れない、声が聞けない会えない。
こんな状態の中、孤独を感じない人間なんているんだろうか。
寂しいと思わない人間なんているんだろうか。
もしいるとすれば、きっとそいつは感情の一部が欠落してるに違いない。
そんな風に思ってしまう程、今の俺は孤独感に苛まれ、ネガティブ思考をフルに発揮していた。
話し相手もいない教室の中、そろそろ夏休みだと言う事で、浮ついた空気に一人盛大にため息を零す。
もし真弓がいたら、今どんな話をして、どんな顔で笑っていたんだろうか。
黒板が見にくいだろって、気を使って変わってくれたのも偽りの優しさだったんだろうか。
屋上で、友達を守ろうとする事がそんなにおかしいかとボスザルに食ってかかっていったのも、単なる茶番でしかなかったんだろうか。
空いたままの後ろの空席に、俺はまた静かにため息を零した。
「祐介」
騒がしいお昼休み、嫌になって机に突っ伏し目を閉じた時だった。
名前を呼ばれ視線を上げると、俺を子犬と診断した加藤が右側から俺を見下ろし笑っているのが見える。
またおかしなサイトでも見付けてきたのか、そう思いながら頭を上げた。
「な、なに」
じっと見つめられ、思わずどもる。
「明日からさ、一緒に飯くわね?」
その意外な言葉に俺は目を丸くした。
加藤が、俺と昼食を?
え、なんで?何の為に?
無駄にビクつきながら想いを顔に乗せてみる。
「真弓、学校辞めてお前いっつも一人じゃん。なんか見るに耐えなくてさ」
「……………」
な、なんていい人なんだ…っ。
涙すら出そうだ…。
やっぱり人を外見とか類友とかで判断してはいかんな。
感動しつつありがとうと言葉を返せば、加藤の口から更に意外な言葉が放たれた。
「まぁ俺がっつーか、けんちゃん先輩に指示されたのが大半の理由なんだけどね」
「け……?」
「ああ、ごめん。浅間先輩の事」
…………………。
「え…?」
さっきからけとかえとか、一文字しか言葉に出来てないじゃないか。
だって、だってね…?
「あの、浅間先輩と仲いいっていうか、仲いいとかいうレベルじゃない、…よね?」
加藤の顔を凝視しながらそう質問すれば、案の定加藤はニッと可愛らしい笑顔を見せて。
「俺、死神の裏メンバーだったんだ。あん時だって、お前に気付かれないように写真撮ってこいってクマちんに言われて、苦肉の策でありもしない検証サイトとか言って写真撮ったんだぜ」
「あの時…?って、子犬とかなんとか、」
「そうそう、それ。あれ嘘だかんね、まぁお前って本当に子犬に似てるけど」
「その前に、裏、って…」
裏メンバーってなんなんだ。
「あぁ、顔を知られてないメンバーの事。隠密隊ってーのかな。だから俺がお前と接触しても問題ナッシング、なわけ」
なんて事だ。
加藤までボスザルの仲間だったなんて。
ふっと、加藤から目を外し、俺は机に視線を向けた。
「祐介?」
そんな俺の反応に、加藤の疑うような言葉がかかる。
「けんちゃん先輩が本当のトップって、俺知らなかったんだ。俺らみたいなんと普通に飲んだりしてる人がまさかボスなんて誰も思わねぇじゃん?」
ボスザルの事を親しげにけんちゃんと呼ぶ加藤に、俺は何故かイライラとしてたまらなかった。
単なるヤキモチなんだろうけど、そんな簡単な単純なものでもないような気がして。
加藤の顔がうまく見れなかった。
「な、一緒に行動しようぜ。他のヤツらにも言ってあるから」
「ごめん、やっぱりいいや。ありがと」
なんて醜い人間なんだ。
誰かの親切を、勝手な想いで振り払った。
聞き返される事を恐れた俺は、急いで席を立つと、用があるからと逃げるように教室を飛び出した。
.
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
81 / 301