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トイレの個室に息を潜めながら、そういえばボスザルに初めて呼び出された時もここでこうして考え込んでいたな、と考える。
昼休みはもう終わっただろうか、いつでもガヤガヤとした喧騒は変わらない為、やっぱり外の様子でそれを推測するのは難しい。
はあ、とため息を吐いて立ち上がる。
加藤は別に何も悪くないし、むしろ凄くいい子なんだと思う。
あのボスザルをけんちゃんなんて親しげに呼べてしまうくらいだから、きっと中身は肝の座った男らしい男に違いない。
ボスザルも、どうせ男を選ぶなら加藤みたいに可愛くて逞しくて明るい子を選べば良かったのに。
離れてる時間が、密かに胸の奥底でくすぶっていた疑心を少しずつ引きずり出してくれる。
まだ付き合ってもいない段階で、不安なんて沢山あって、信頼するにはまだ何かが足りない状況下で、こんなに離れ離れになってしまって。
一緒にいられたら、そんな疑念や不安も、ボスザルが一瞬で消してくれたに違いなくて。
なのに、俺がこうやって疑いを持っても、恐くなっても、それを消し去ってくれる存在が傍にいない。
こんなの、どんどん落下しちゃっても仕方ないじゃないか。
もともとネガティブなんだ俺は。
いい方になんて、誰かの助けがない限り行けそうになかった。
「今日はもうサボろう…」
立ち上がり、個室から出た。
教室に戻れば加藤の姿はなく、ほっとしながら鞄を手に取り廊下に出る。
いっその事俺も学校辞めてしまおうか、なんて最低な事が頭をかすめたが、母さんの泣き顔を思い出したらそれも瞬時に消えた。
つまらなかった人生が、以前よりももっとつまらなく感じた。
なんなんだろうか、この虚無感は。
強くなろうって、決めたはずなのに、大事な人を護れる人間になろうって、決意したはずなのに。
どこまで臆病なんだ俺は。
約束したんだ、ボスザルと。
好きな人の言葉を信じられなくて、この先恋愛なんてできるわけがない。
離れてるっていっても、会おうと思えば会える距離にいるんだ。
本当に遠距離恋愛してる人達に比べたら、温いもんじゃないか。
めそめそと情けない。
加藤の呼び方が気に入らないなら、自分だってもっと親しげに呼べばいい。
けんちゃんは取られたから、けんけん、とか、けんたん、とか、けんぽん、とか、………。
「…………」
よし、落ち着け祐介。
大丈夫だ、勢いで考えちゃっただけだもんな、わかってるよ、大丈夫。
うん、大丈夫だから、恥ずかしいのはよくわかった、でも今叫ぶのはやめておこう、な?
家に帰ったら存分に叫ばせてやる。
だから今は、今は……っ、
「ぽんはないよ!!ぽんはない!!あったら駄目だ!!地球が滅びちゃうよー!!うわあぁああ!!」
いつの間にか校外に出ていた俺は、通行人から異様な目で見られながらマンションまでフルダッシュした。
次の日。
あまりの羞恥に現実逃避し過ぎた俺はまんまと寝過ごし、二時間目から登校した。
休み時間、ガヤガヤとやかましい室内に足を踏み入れ、自分の席に目をやった瞬間時間が止まる。
空席だった真弓の席に誰かが座っている。
見た事もないヤツだ。
真っ黒な髪は所々色が禿げたように白くて、それを隠す為なのか全てをチョンマゲみたいにして一つにまとめてある。
椅子にふんぞり返り瞬きもせずにじっと黒板を睨み付けているその男に、俺はくるりと踵を返して再び廊下に出た。
誰なんだ、あの恐そうな男は。
うっかり視界を遮ろうもんなら確実に殴られる。
ガンッとかいきなり後ろから椅子蹴られて飛び上がらなければならなくなる。
他のクラスのヤツでもなさそうだし、でも制服着てるからバカ高の生徒ではあるんだろう。
廊下からこっそり中を覗いて見る。
体勢はさっきと変わらず、しいて言えば更に眼光が鋭くなったくらいか。
そこに座るのは勝手だけどな、もう少しフレンドリーな雰囲気を身にまとったらどうなんだ。
近付けないじゃないか、このマダラ頭め!!
遠くから毒づき、じっとマダラを見詰める。
そしてニフラ○!ニフラ○!と一生懸命脳内で呪文を唱えた。
すると呪文が効果を示したのか、マダラがゆっくり立ち上がるのが見えた。
そしてそのままこっちに歩いてくるのを確認した俺は、バッとドアに身を隠し、覗いていた後方の教室の出入口から前のそこへとダッシュで移動した。
しかし。
「っぷ…!」
突然前の入り口から誰かが現れ、その胸に顔面強打。
鼻を強く打ちうずくまってしまった俺は、大丈夫かと声をかける目の前の男に目を向けた。
「!!!!!」
瞬間目ん玉が飛び出る。
「悪い、走ってくるとか思わなかったから」
そこには何故かのマダラ。
何でだよ、後ろのドアに向かって来てたじゃん。
卑怯だぞコノヤローめ。
「鼻血、出たか?」
「や、いえ、大丈夫ですはい…」
ああ、またも見た目で判断してしまった。
結構優しいじゃないか。
立ち上がり、ごめんなさいとぶつかってしまった事を謝った。
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