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③
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「こういうアクシデントも、一種の縁ってヤツになると思わねぇ?」
その唐突な恐ろしい言葉に俺の目がゴマになる。
そして何かを企むようなその笑顔を凝視しながら固まった。
いきなり何を言い出すんだこのマダラは。
わけのわからない事を言ってないでその頭を白なのか黒なのかハッキリさせたらどうなんですか。
なんて勿論言えるわけもなく、もごもごと口ごもって入れば更にマダラは笑顔を作って見せた。
「俺、今日転校して来た久住由良ってーの。ここの奴等のよそモン扱いってハンパねぇのな」
「え、転校生…?」
「転校っても、遠いとこから来たわけじゃねぇよ。すぐ隣の橋北から」
きょ、橋北…。
よりによって敵対している学校に転校なんて、イジメられに来たようなもんじゃないか。
「多分、そのうち呼び出されんだろうけどな」
言いながら笑顔を曇らせるマダラを見て、俺の眉がハの字に下がる。
普通に考えてみても、不憫なマダラには同情せずにはいられない。
しかし仲良くしたらしたで、下手すれば俺まで巻き添えを喰らう羽目になりかねない。
まただ。
また天使と悪魔の抗争だ。
マダラは多分、縁とかなんとか言うくらいだから俺と友達になりたいんだろうと思う。(自惚れだったらすまない)
けれど二つ返事でオーケーしてやれないのが俺の悪い所でもあって…。
どうしようか。
一緒にイジメられては最悪だし、かと言って保身の為に誰かを見殺しにはしたくない。
昔の俺なら間違いなく見殺しにしたんだろうけど、でも今の俺は違う。
誰かを護れる立場になろうって、決意したんだ。
「あ、あの、俺は、武藤祐介と言います」
抗争は、微妙な判定で天使が勝利を納めた。
微妙な判定…、でいいのか。
ここは悪魔をKOしとくべきだと思わなくもないんだが。
判定勝ちでもまぁそれはそれで今はよしとしよう。
まだ始まったばかりなんだしな。
「敬語、おかしくね?」
口元に手をあて、何か珍しいモノでも見るような目付きのマダラに、俺の黒目が左右にうろうろと彷徨った。
仕方ないじゃないか、見た目が普通じゃない相手に対しては無意識に敬語になっちゃうんだから。
しかし、脱チキンを宣言した今の俺にはまずそういう所からの叩き直しが必要なんだろう。
よし、やってみるか。
「だ、だよな、タメなんだから敬語はおかしいよな、おかしいよ、うん」
「俺留年してるからお前よりイッコ上だけどな。学年は同じなんだから敬語はいらねぇよ」
……………。
「すみませんそういう事は最初に言っといてもらえませんかだったら敬語でいいじゃないですかからかってるんですか」
「からかってねぇよ、だから学年は同じなんだから敬語はいらねぇて言ってんじゃん」
「そういう理屈は俺には通用しないんですよ、年上って分かったからにはもうタメ口なんてきけません」
アッチの方向を見ながら捲くし立てる。
そんな俺を見てプッ、と吹き出すマダラにやっぱりからかってるんだと俺はイライラし始めた。
「友達、なってくれんだよな」
「友達っていうか先輩後輩ですね、はい」
「や、友達」
「あくまで先輩後輩の関係を前提でのお友達で」
「友達」
「で、ですから、年が上なんだから友達って言う言い方はおかしいですよね」
「と、も、だ、ち」
「分かりました友達で」
段々と低くなっていく声がそれ以上低くなる前にと俺は渋々友達という肩書きを受け入れた。
脅してまで友達を作りたいのかこの男は。
そうか、いないんだな、きっと。
俺と同じで友達がいないヤツなんだ。
勝手にそう解釈した俺はそらしていた視線をマダラへと向けた。
「一緒に残りの学生生活をエンジョイしましょう。友達なんていなくたって大丈夫です!」
「だからお前が友達だろって」
「大丈夫!きっとすぐに本当のお仲間が見つかる筈です!!それまでは俺が友達でいますから、安心して下さい!」
人助けも脱チキンへと続く大きな道筋。
マダラに友達ができるまで俺がそばにいて支えてやろう。
いいぞ祐介、その調子だ。
不審気に俺を見詰めるマダラに気付く事もないまま、俺はしばらく盛大に自己陶酔に陥った。
昼休み。
この時間になるまで、俺は一人ずっと悩んでいた。
橋北の生徒というくらいだから、あのオヤジ犬の事もきっと知っているはずだ。
もしかしたらオヤジ犬のチームの事にだって詳しいかも知れない。
そしたら、今その辺はどういった状況になっているのか聞き出せるかも知れない。
そしたらそしたら、ボスザルの事も少しはわかるかも知れないんだ。
しかし、いきなり前の学校のボスについて聞くのはとても違和感があり過ぎる。
ましてや、俺みたいなこんな普通男子が首を突っ込むような話じゃない。
そんな事に興味があるってわかったら、不審がられてしまう。
最悪、ボスザルとの関係も知られてしまうかも、なわけで。
だけど聞きたい、知りたいんだ。
好きな人が、今何をしてどういう状況下にいるのか、凄く知りたいんだよ。
いつまで待てばいいのか分からないこの不安を、様子を探る事で勝手でもいい、俺は目処をつけたかった。
「難しい顔」
「え…?」
前後に座ったまま昼を迎えた俺とマダラ。
俺は朝買ってきてあったパンを手に持ち、マダラはおにぎり。
それぞれ口に運びながら沈黙が続く中、不意にマダラがそう言って前に座る俺の顔を覗き込んできた。
「何考えてんの」
「や、別に…」
目を合わさないままパンにかじりつきもごもご誤魔化す。
しかしマダラは食い下がってきた。
何だよ、言えよ、とかうるさい。
あまりにもしつこいのでつい口から出てしまった。
「オヤジ犬元気!?」
……………。
な に を い う
「は、オヤジ犬?」
テンパリ過ぎて手にしていたまだ大きなままのパンを力一杯口に押し込んだ。
「ほえんあんえおあいえう」
「何言ってっか全っ然わかんねぇ」
餌を口に溜め込んだリスのように頬をパンパンにしたまま、俺はトイレ!と叫んで教室を飛び出した。(正しくはおいえ!)
「オーイエー…?ああ、イタイ子なんかアイツ」
なんて既に不審がられてしまった事になんて、当然俺には気付けなかった。
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