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キーマン①
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放課後、あまりお金は使いたくない、というマダラの言い分を聞き入れ(というか歯向かう勇気も理由もノミ程も存在しないのですが)校内(と言っても外)にある自販機周辺のベンチへと二人並んで腰掛けた。
後で話そうと地獄へのお誘いを受けた後での今の状況。
話す内容なんて一つしかないわけで。
何て説明したらいいのかこの時間になるまで頭をフルに稼動させて考えてみたが、結局納得してもらえそうな嘘を生み出す事は出来なかった。
目の前をチラホラ生徒が通り過ぎていく。
ここに来てからマダラは一度も口を開かず、さっき買ったジュースをただ黙って飲んでいる。
俺はというと普段は滅多に見せない往生際の悪さを目一杯覗かせながら、ギリギリの状況でうまくかわせる方法を考えていた。
とりあえずまず最初にオヤジ犬をなんとかしなければならない。
オヤジ犬元気?なんて、オヤジ犬をマダラが知っている事を前提として聞いてしまっている。
勿論オヤジ犬なんて知るわけもないマダラは、俺が誰かをオヤジ犬と呼んでいるという事までは容易く推測出来たに違いない。
だから気になったんだと思う。
一体誰をオヤジ犬と呼んでいるのか。
しかも初めて会った二人の間に共通する人物(もしかしたらペットか何かと思ってるかも知れないけど)なんていないはずなんだ。
その前に初めて会ったという仲じゃなくても、平凡と非凡の間に共通して関わる人物なんて存在しないはずで。
だから気になったんだと思う。
もう素直に言ってしまうべきか。
いやまて。
もしマダラがオヤジ犬の配下にいる人物なら、死神を知らないはずはない。
デコピンもボスザルも知ってる可能性は大なわけで、そうすると、もしかしたら俺の事も知っている可能性がある。
あのメールを見たなら、知ってるはずだ。
でも最初にぶつかって俺を見たとき、マダラはそんな素振りを少しも見せなかった。
という事は、少なくともマダラはチーム云々とかと関わりを持っていない可能性があるという事で。
や、もしかしたらただメールを見る機会がなかっただけかも知れない。
ああ分からない。
どうすればいいのか分からない。
正直に言えばいいのか、言ったらダメなのか、俺の小さな脳みそでは結論を出す事が出来なかった。
「むっちゃん」
そんな俺に漸く視線を向けたマダラが、手にしていたジュースの缶を離れたゴミ箱までガコンと投げ入れる。
結構キョリあるよね、なんて思いながら感心していれば、ベンチに座る俺の前に立ち、マダラはジャリっと足元から音を立ててしゃがみ込んだ。
目下にあるその顔は、何がそんなに楽しいのかと問いたくなる程に笑顔に崩されていて。
「確かめたい事があるんだけど、いい?」
唐突にそんな事を聞かれた俺は、マダラを見たまま軽く首を斜めに傾けた。
「ここって、屋上からよーく見えるんだよね。知ってた?あ、動くなよ」
屋上、と言われて上に動かしかけた首を制止されて、その意図が掴めないまま再びマダラに目を向ける。
と、鼻がむずむずして勢いよく飛び出たくしゃみに、俺の頭が下にガクンと下がった。
瞬間、頭上でブンッと何かが空を切る音がする。
頭を下に垂れたままの体勢で思わず俺は固まった。
待ってください。
待ってください。
ま っ て く だ さ い
「よけんなよ」
しゃがんでいた筈のマダラの顔はそこにはなく、代わりに見えたのはスラリと伸びた一本の長い足。
いつの間に立ち上がったのかと、もう一本の足がそこに揃えて下ろされるのを俺はガタガタと震えながら見詰めていた。
蹴ったよね、今明らかに俺の頭上を蹴ったよね?
くしゃみしなかったら間違いなく俺ふっとんでたよね、ね?
「うっ、うわああぁぁああ!!!」
いきなり何て事しやがんだマダラめ!!
当たったら死んでたよ、絶対俺死んでた!!
もしくは首がもげてそこに転がってたよ!!
どっちにしろ死んでたよ!!
なんなんだ!!
何をするんだこの白黒男め!!
ガチガチと震えながらベンチから勢いよく立ち上がる。が、腰が抜けたらしい俺はうまく立てずにべちゃっと地面に転がった。
「だからさー、確認してもいい?って聞いたじゃん」
「き、きききかれたけど返事してないです…!!」
「別にむっちゃんの許可いらねーし」
「だったら聞かないで下さいよ!!」
「一応蹴るからねって教えたつもりなんだけどなー」
「どどどどどどこが教えてるんですかそんな質問であー今から蹴られるなーなんて熟年夫婦のあ、うんの呼吸ででも理解できないですよ!!!」
「ははっ、息継ぎしろって」
「してますけど!!」
尻餅をついたまま、上から迫り来るマダラにじりじりと後ずさりする。
次蹴られたらよけられない。
確実に首の骨を折られて即死だ。
さっきはまぐれで避けられたけど、あんな幸運は現時点ではもう二度と訪れない。
ガチガチと歯をならしながら、近付いてくるマダラに顔が青冷めていく。
ハッハッ、と断続的に口から抜けていく息は、緊張により全力失踪したかのような心臓の拍動を意味していた。
恐怖に陥りすぎて、もう涙を流す余裕もない。
「そろそろ来るかなー」
俺との距離をゆっくり縮めながら、マダラはそう言って空を仰いだ。
意味の分からない俺はとにかく逃げようと防衛反応しか働かずに、隙を見て立ち上がろうとチャンスを伺った。
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