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⑤
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「つか、俺達だけで動くのはマズイだろ」
「藤代さんとこ連れてくべ」
恐ろしいその会話にガタガタと体が震え始める。
どこへ連れて行く気だ。
俺は今から叔父の為にタクシーを拾いにいかなきゃならないんだ。
お前達に拉致られてる場合じゃないんだ。
頭ではそんな事を思っても、体は言う事をきかない。
逃げ出そうともできず、喋る事もできず、俺はただ黙って従うしか出来なかった。
「ちょいちょい、お前ら」
俺の腕を引いて歩きだす集団と俺の背後から、不意に低い声が聞こえた。
聞き覚えのあるその声に涙目になりながら振り向けば。
「俺の可愛い甥っ子、どこ連れてくんだよ」
輝彦さんがタバコに火をつけながら、心底気だるそうに壁に寄りかかりながらこっちを見ていた。
ああ、神様二号だ…。
「何だ、おっさんの連れか」
「そ、返してもらうぞ」
「ヤダね」
ニヤニヤと笑みを張り付ける集団に、輝彦さんがヨタヨタと歩いて来る。
ああそうだ、酔っ払ってんだ。
大丈夫か輝彦さん。
その前に、社会人がこんな奴等と殴りあうわけにはいかないだろう。
どうするつもりなんだ、と、俺はただ成り行きを見守った。
「ぐっ…」
見守った瞬間だった。
俺の腕を掴む男の首に、輝彦さんの大きな手が食い込む。
男も咄嗟に輝彦さんの腕を掴むが、ビクともしないんだろう、くぐもった声しか上げなかった。
「返せ、って言ったんだ。聞こえなかったのかクソガキ」
当然一緒にいた仲間は助けるべく動き出す。
しかし。
「誰だよアンタ」
「俺か?そこら辺にいるしがないサラリーマン」
誰も、手を出そうとはしなかった。
多分それは、輝彦さんが持つその雰囲気と、今にも牙を剥き喉を掻っ切ろうとする鋭い目付きがあったからに違いない。
自由になった俺は、ガクガクと震える足に鞭をふるい、輝彦さんの後ろへと身を隠した。
同時に、輝彦さんも掴んでいた男の首から手を離す。
「っだよ、折角いい獲物が手に入ったと思ったのによ」
しっしっ、と追い払うように手を振る輝彦さんに舌打ちしながら、集団は闇の中へと姿を消した。
「っのバカ!だから一緒に行くって言ったろう!」
「ごめんなさい…」
裏道から大通りに出ると、輝彦さんに怒鳴られた。
小さく小さくなりながら、だけど助かった事にほっと息を吐く。
「何もされなかったか。金取られたり」
「うん、財布持ってきてないし」
「そうか、ならいい」
「もし殴りかかってきたら、殴るつもりだった?」
「まさか。手を出すつもりはなかったさ、安心しろ」
安心しろ、との言葉に、俺が何を心配していたのか輝彦さんは理解してるんだと思った。
俺の為に、会社を首にでもなるような事態になってたら、きっと俺、自害する勢いだったかも知れないから。
迷惑かけ過ぎだろって。
頭をくしゃくしゃに乱されて、もう夜道は一人で歩かない事を強くしつこく約束させられた。
「お前に何かあったら俺が兄貴に殺される」
「大丈夫だよ。押し付けたのはお前だろ!って言い返せばいい」
「バカ言うな」
それからタクシーを拾って俺達は無事にマンションまで帰りつく事が出来た。
しかし、そこで待っていたのは。
「遅い」
「真生?」
ドアの前にしゃがみこみ、仏頂面でこっちを睨む大魔王だった。
大変お久しゅうございます。
「来るなら来るって電話しろ」
「明日休みだっつーから、泊まりに来た」
ぇぇー…
もろに嫌な顔を作った俺に気付いたんだろう。
大魔王に中身の入った缶を投げられて俺は又恐怖に震えた。
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