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ボスの苦悩①
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ガチャガチャと鍵を開けるハルさんの手元を見ながら、ここってハルさんが所有してるんだ、と俺は感心しながら中に入った。
一気に機嫌が直ったらしいボスザルもチーム潰しをやめてくれて、皆でまたゲーセンに。
前と同じようにソファーに座り、またコーラを貰った。
「さっすがユースケ、意図も簡単だったな」
「んな、俺らがあんな苦戦してたの嘘みてぇ」
「拳聖死んだな、とか思ってたのに」
ナツさんとゴンタさんが、コーラを飲みながらそう笑い合う。
俺は、まだ繋がれたままの手に緊張しながらも、空いた手でコーラをちびちびすすった。
「なぁなぁ拳聖、俺らもチーム入れてよ」
そう言いながら、ナツさんが思い出したようにボスザルにぐっと詰め寄った。
そう言えば、ここにいる皆はボスザルの正体知らなかったんだろうか。
「ダメだっつってんだろ」
ボスザルが、くどい、と言わんばかりの口調で目を伏せる。
「ケチ」
「お前らが危ない目に合うのがイヤなんだよ。チームとか関係なしに、普通のダチでいてくれ」
「俺らだってお前の手助けしたいんだけど」
黙っていたハルさんが、ナツさんの言葉を遮るように口を出して、だけど目はあっちに向けたまま、ボスザルから逸らされていた。
「手助けとかいらねぇ。わかんねぇか、俺が唯一気を抜ける場所がお前らのいるここだって」
「だからってトモダチに隠し事はよくないと思うけど」
拗ねたようなハルさんの声音。
やっぱり知らなかったんだな。
「だからそれは謝ったろ。お前らは俺にとって特別なんだって何回言やわかる」
はぁ、と吐き出されるため息。
俺は、なんだかちょっぴりジェラシーを感じて、繋がれた手にきゅっと力を込めた。
それに気付いたボスザルが、それ以上の強い力で握り返してくる。
ただそれだけの事がなんか妙に嬉しくて、くすぐったくて、俺の口元が無意識にふっと緩んだ。
「せんせー!なんかこそこそとやらしい事してる人がいます!」
「ダメだねぇ、はいバツとして公開キッス」
……………。
目敏い疫病神め。
見られた、と慌てて手を離そうとするも、当然ボスザルはそれを許してはくれず。
またからかいに走る傍らの疫病神を、俺は心の中で海に沈めた。
「そういや例の侵入者、何者かわかったの?」
どこから持ってきたのか、いつの間にやらボリボリお菓子を頬張っているゴンタさんが、話題転換とばかりに唐突にそんな事を口走った。
例の侵入者…?
と考えて、思い当たる人物が頭に浮かんだ瞬間血の気が引いた。
マダラ、忘れてた。
「何者かはわかんねぇ。けど、もう学校には来ねぇはずだ」
ボスザルのその言葉に、俺はほっと息を吐く。
根拠はなくても、ボスザルが問題視してないという事に、不思議と安心感が生まれた。
「祐介に利用価値があるってわかったから?」
「ん」
「じゃあ、これから危なくなるね、祐介」
「…………」
そんな憐れんだ目で見ないで下さい。
物凄く行く末が不安になります。
「まあ、あの男がいなくても危ないんだけどね、毎日、四六時中」
「…………」
なんだよ、イジメたいのかこの疫病神め。
「ゴンタ、あんまり脅してやるな。見ろ、祐介半泣きじゃん」
「な、泣いてません…っ」
俯いて涙を堪える。
力み過ぎて体がぷるぷる震えた。
危険な立場にあるってわざわざ再確認しなくてもよくないですか。
そんなの言われなくても分かってますから。
か、覚悟くらい出来てますから…。
多分…。
ダメだ泣きそう。
ぷるぷるしていたら、繋がれた手が離された。
そしてふわりと、抱き締められる。
「俺が護るって言ったろ?お前は何も心配する事ねぇ。ずっと傍についてるから」
俺の髪に鼻を埋めて、低く柔らかい声でボスザルが囁く。
それからその唇は耳元に移動して。
「なんだったら、風呂も一緒に入るか」
とんでもないその言葉に、俺の顔が一瞬で大火事になった。
「せっ、セクハラですよそれは!!いいいいぃですっ!!家の中ではそんなに傍にいなくていいです!!」
あまりの恥ずかしさに強引に腕の中から逃れ、俺は警戒するようにハルさんの隣へと身を隠した。
「相変わらずだね、お前ら」
おかしそうに笑い声を上げながら、ハルさんはそう言って俺の頭をぽんぽこ叩いた。
しかし一連の俺の言動が気に入らなかったのか、ボスザルの眼にスッと影が宿る。
うわああぁ!
怒るなよバカ!!
悪いのは自分じゃないか!!
「祐介」
「な、何ですか…っ」
くいっとボスザルが指先で手招きをする。
でも俺はハルさんから離れられなくて。
疫病神二人はニヤニヤしながら黙ってやりとりを楽しんでいた。
死ねばいいのに。
「帰る」
俺が動かない事を確認すると、そう吐き捨てて、ボスザルは立ち上がった。
ああまた喧嘩みたいになるのか、とその姿をすがるように見詰めれば、
「帰ったら、覚えとけよ」
なんて、とんでもなく妖しい笑みを作って、ボスザルは店から出て行った。
いや、忘れます、はい。
「あーあ、拗ねちゃったー」
「祐介、お前もっと男心を勉強しなさい」
「照れ屋さんなのはわかるけどさー、あれじゃ拳聖がかわいそうじゃん」
ボスザルが消えると、口々にそう三人に責められて、俺は無意識にも正座した。
「お前、甘えた事ある?」
「催促した事は?」
「お前ら、祐介がそんなんできるわけねぇだろ」
はい、すみません。
おっしゃる通りです。
「てかもうヤッた?」
「まだだろ、一緒に風呂入るかがセクハラになんだから」
………………。
「そのままだと、拳聖浮気しちゃうかもなぁ」
「…!?」
ナツさんの意地悪なその言葉に、垂れていた俺の頭が跳ねるように上に上がった。
そんな俺の反応を見て、三人の顔が明らかに何かを企むようなそれに変わる。
な、なんなんですか…。
「よしよし、じゃあ、お勉強しようか」
「お、勉強…?」
「拳聖に何か言われた事ない?勉強しろ的な」
………………。
今思い当たるのは、昨夜の事か。
「あ、誘い方、覚えろ、とか…」
もじもじしながら斜め下を向き、蚊の鳴くような声で答えた瞬間ゴンタさんが勢いよく立ち上がった。
ビクッ、と肩が揺れる。
「それだ!!」
そして俺を指差して握り拳を作った。
「よし、いいか、もうな、お前からエッチを誘え」
「む、むりです…」
「大丈夫、お前はやればできる子だ」
「……………」
俺の何を知っとるんだ疫病神め。
なんだか帰りたくなってきた。
ため息を吐く俺にも構わずハルさんが続ける。
「ちゅうはもう何回もしてんだろ?だからな、その後にこう、拳聖の股関を触っ──」
こか…っ!
「ムリです!!!ななな、何で股関っ、股関とか、変態じゃないですか!!」
何を言っとるんだこの男は!!
「よしよしわかった落ち着け」
真っ赤になりながらソファーの上に立ち上がる俺の肩をゴンタさんがそっと押し下げる。
ハァハァと荒くなった呼吸をそのままに(変態的な意味ではない)、俺はまたソファーの上に正座した。
「じゃあこうしよう。言葉で誘え」
「おう、いいね」
「あれだよ、キスするだろ?そしたら潤んだ目で相手を見ながら、あなたの太くて大きなバナナが欲しい、ってゆっ、ぶ…っ」
言いながらナツさんが笑いを堪える。
「ちっげーよバカナツ、バナナじゃなくてこけし、あなたの立派なこけしっ、こけ…、ぶはっ、」
ゴンタさんは無遠慮に爆笑。
「…………」
かんっぜんに遊ばれてる。
何でバナナとかこけしとか。
関係ないじゃないか。
「お前ら下品だなー。それなら、貴方の持ってる太い注射で早くこの熱を静めて!とかよくない?」
「ひぃー、も、腹いてぇー」
「ふ、太い注射とかどこのAVだよっ、」
「……………」
ダメだこの人達。
笑いが渦巻く中、俺は静かに退席した。
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