アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
影①
-
「じゃあな、何かあったらすぐ連絡しろよ」
そう言いながら、玄関先で靴に足を突っ込む輝彦さんに緩く手を振る。
朝の6時。
ボスザルは当然まだベッドの中。
昨日あのまま朝まで寝てしまったらしい俺が目覚めたのは早朝5時前。
きちんとベッドに運んでもらってあって、部屋の外で何やらガタゴト聞こえたから出てみれば、輝彦さんが出勤の準備をしていた。
そう言えば出張だったな、と声をかければ、そこから延々とくどいくらいに色々と注意点を叩き込まれ、お茶を啜りながらも俺は後半から聞き流していた。
一人になるなとか、ボスザルから離れるなとか、暗くなってからの外出はたとえボスザルと一緒でも禁止だとか。
強く約束をし、何度も復唱してやると、輝彦さんもやっと安心したようだった。
「アイツには昨夜耳にタコが出来るくらい話し込んでやったから」
「そうなんだ」
「いいか、俺に迷惑がかかるかも、なんて余計な気は絶対に遣うなよ。そんな事される方が最高に迷惑だ」
「ん、わかってる」
靴を履き、スーツの衿元やら腕時計の向きやらを正すと、輝彦さんは俺に目を向け、俺の頬にやんわりと手を添えた。
「お前は大事な甥っ子だ。兄貴に顔向け出来なくなるとかそんな事は実際どうでもいい。お前に何かあったら、俺が困るんだ」
「…うん」
「傍についてやれなくてすまないと思ってる。なるべく早く仕事片付けて戻ってくるから」
頬に添えられた手が、ゆっくりと背中に回される。
そのまま優しく抱きしめられて、叔父の温かい心に俺の目許がじんわり熱くなった。
こんなにいい人に心配なんかかけちゃいけない。
辛い想いをさせちゃいけない。
帰ってきたら、笑顔でおかえりって言ってあげるんだ。
離れていくその手に、輝彦さんがお父さんだったらよかったなぁ、なんて事を秘かに思った。
「じゃあな。拳聖にもよろしく言っといてくれ」
「わかった。気を付けてね」
「ああ、いってきます」
「いってらっしゃい!頑張ってね!」
ドアの向こうへと消える姿。
なんとなく寂しい…って感じた。
だから、俺はすぐボスザルの部屋へと足を向けて、ノックもなしにその中へと静かに滑り込んだ。
やっぱり寝てる、とベッドに歩み寄りながら寝顔を堪能する。
丁度ドア方向に身体が向けられてたから、俺はその傍らにゆっくり腰を下ろした。
「…………」
どうしよう、なんか、すっごく緊張してきた。
二人っきりとか、まるで同棲じゃないか。
しかもあんなとんでもなく破廉恥な事を言われて、一体俺はどうすれば…。
「ん…」
「!!!」
突然寝返りを打ったボスザルに俺は無意識にも起立した。
壁側へと向きが変えられたその体勢、思わず広い背中に釘付けになる。
「…………」
そして俺は、誘われるようにしてその隣に横たわった。
暑いのか、シーツは足元に丸まっている。
だから、ボスザルの身体は剥き出し。
背中に額をあてて、起こさないようにと、俺はそっと片腕を腰に巻き付けた。
別にイヤじゃないんだ、当たり前だろそんなの。
ただ、恐いというか、恥ずかしいだけであって。
ボスザルが求めてるように反応出来るのか、幻滅されたりしないか、どうしてればいいのか。
色々不安は尽きない。
嫌われたくない、それが一番の理由。
セックスって、自分をさらけ出す行為だって俺は思うから、だからさらけ出して、その後嫌われたりしないか不安になるんだ。
知らずと腕に力が籠る。
やっぱり、予習は必要だよな。
どんな感じでとか、多少勉強しといた方がまだマシな気もする。
無知なまま挑むなんて、あまりにも無謀過ぎる。
よし、勉強しよう。
起こさないように身体を起こすと、俺は静かに自室に向かった。
「携帯で検索…、なんて検索したらいいんだろう」
携帯片手にベッドに正座。
既に手には汗が滲んでいる。
「お、男同士の、え、えっちの仕方…、でいいのかな」
とりあえず打ち込んでみた。
「…………」
で、出た…。
男同士のセックス講座とかやり方とか色んなの。
とにかく恥ずかしがっていては何も始まらない。
画面をすぐにでも閉じたいとする衝動をぐっと堪えながら、とりあえず適当に選んでボタンを押した。
「…………こすりあい」
って、何だ。
読み進める。
あ、そうか、二人のアレを擦り合うのか。
………………。
「だ、だめだ…っ、もう既に俺のライフがゼロにっ…」
やっぱりボスザルの言った通り、予習は俺にとって逆効果だったようだ。
ぷるぷると全身真っ赤にしながら、俺はあまりの恥ずかしさにうずくまって泣いた。
「顔、赤くねぇか」
ボスザルがリビングに出てきたのは8時前。
俺を見るなりそんな事を言うもんだから、俺の顔が更に赤味を増した。
「きょ、今日暑いから…」
「ん、確かに。寝苦しくて起きた」
頭をガシガシと乱しながら、ボスザルは冷蔵庫からお茶を取り出した。
それをコップに注ぎ一気に飲み干すと、いきなり着ていたTシャツを脱いで半裸になった。
軽く死にそうになった。
「8時か、朝メシどうする」
「や、もう…」
「時間ねぇか」
「は、い…」
「そういやおっさん、もう行ったのか?」
「あ、はい。よろしくって…」
「昨日うぜぇくらいなんか色々話されたし」
み、見れない。
あんな検索をした後にそんな半裸姿なんて死んでも見れないです。
朝っぱらから無茶をした自分を恨んだ。
そんな俺に気付いたのか、キッチンにいたボスザルがゆっくりと近付いてくる。
カチコチに固まった俺は、されるがままだった。
「昨日言ったアレ、気になってんのか」
「………っ」
ソファーに押し倒され、そんな事を耳元で低く囁くもんだから、俺の脳ミソは一瞬でオーバーヒート。
何も考えられなくなった。
「予告通り、実行すっから」
「………」
真っ赤に染まった耳朶を、あむあむと甘噛みされる。
ぎゅっと閉じられた瞼から力が奪われて、不本意にも重なった視線に体の芯が疼くように熱くなるのを感じた。
「祐介」
「…は、はぃ」
ボスザルの目が、心なしか潤んでるように見える。
その熱く焼けるような視線に、俺の体もどんどん熱くなって…。
「舐めてぇ」
「…!?、な、ななな何をっ、」
「お前の、カワイイち──」
「うわあぁああ!!言わないで下さい言葉にしちゃダメですってそんなの朝からなんなんですか大丈夫ですか本当にっ!!」
ぐいっとボスザルの両肩を両手で押し退け、はぁはぁと肩で息をする。
まったくとんでもないな、この発情したサルは。
朝っぱらからちんことか何を言おうとしとるんだ。
……………。
「何だよその顔」
「何でもないです、は、早く学校に行きましょう…」
自分の腐った脳内に俺はまた涙を流した。
.
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
112 / 301