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まだ顔が熱かった。
無意識にほっぺに手を添えながらボスザルと並んで学校に向かう。
制服というよりは私服に近い格好をしたボスザルを時折チラチラと伺いながら、学校が見えた所で漸く沈黙という気まずい空気が打破された。
「一応教室まで送る」
「え、あ、はい…」
「もうお前を殴ったあの野郎はいねぇはずだから」
「だといいんですけど…」
「一応調べた。久住由良。年は22、コーコーセイと呼ぶにはフケ過ぎだ」
「え?」
思わずその横顔を凝視した。
22…?
って。
「素早く簡潔に、表立たず情報を得たかった、て感じか」
……………。
「えっと、話が…」
つまり…、なんだ、わからん。
「つまり相当ヤバいって事だよ最弱野郎」
その背後からの突然の声に、俺は反射的に振り返った。
最弱だと!?
おっしゃる通りですが何か!!
「尚吾、何だよ珍しいな」
「別に、たまたまだ」
気だるそうに俺の隣に並ぶデコピンを横目で見ながら、俺は無意識にも右隣にいたボスザルの方に身体を傾けた。
長身二人の間にチビの俺とか、何ですか、連行される宇宙人でも再現したいんですか。
「っとにアンタは自覚がなさすぎる。トップに立つ人間に、弱点なんざ絶対あっちゃならねぇっつーのによ」
「済んだ話を蒸し返すんじゃねぇよ」
「はっ、済んだ?お気楽主義も度が過ぎるとただのバカんなるぜ」
「難癖つけに来ただけなら失せろ」
………………。
すみません待って下さい喧嘩はやめて下さい兄弟なら仲良くしましょうよねぇ。
頭上で繰り広げられる険悪なやり取りに、ただでさえ低い俺の身長が更にどんどん低く小さくなっていくような気がした。
「自分の立場ってもんを、アンタはもう少し重く捉えた方がいい。命よりも大事らしいこの最弱チビ野郎を護りたいなら尚更だ」
「珍しい事が続くな、お前が俺に助言か。有り難く受け取っとくよ」
「茶化すな、クソ兄貴が」
ペッ、と足元に唾を吐き捨てると、デコピンはそのまま脇道に逸れて姿を消した。
ああーもー寿命が…。
「気にすんな、いつもあんな男だ」
ほう、っと肩の力を抜く俺に、ボスザルがふっと息を漏らして笑みを作る。
「仲、悪いんですか?」
「悪くねぇよ、別に。さっきのも俺を心配してのもんだ、わかるだろ?」
「はい…」
そのまま会話は途切れた。
またチラリとボスザルを盗み見れば、遠くを見ながら何かを考えているように見える。
その瞳に俺が写っていない事に何故か焦りを感じた俺は、どこかへ行こうとするボスザルを引き止めるようにその腕を小さく掴んだ。
「ん、何だよ」
「あ、えと、別に…、すみません…」
「手、繋ぎてぇの?」
「うぇっ!?」
ちょ、変な声が…っ。
「もう学校に着くけどな」
「………」
やんわりと握られた右手。
照れながらも、俺はしっかりと繋ぎ直した。
離したくない、離して欲しくない。
ボスザルにとって俺は、本来ならあってはならない存在なのかも知れない。
でももう、こんなに好きになって、あんな恥ずかしい事までされて、今更はいそうですかと諦める事なんてできやしない。
どうして普通の恋人同士みたいにはなれないのか。
そんな無意味な疑問に一人モヤモヤと不満を抱えながら、俺は手を繋いだままボスザルと門をくぐった。
教室の前で、ボスザルは加藤に俺を引き渡した。
何かあったらすぐ連絡をと、まるで輝彦さんみたいな事を言い残し、ボスザルは屋上に消えた。
教室にはマダラの姿はない。
目をキョロキョロさせる警戒心丸出しの俺に見かねたのか、加藤がぼそぼそと囁くように口を開いた。
「アイツならもうここには来ないと思うよ」
真弓の席に座り、加藤は俺の机に肘をついた。
「むっちゃんに利用価値があるって確証を得たから」
「…だよな」
「どこの人間だろうね」
言いながら、髪を止めてあるいくつかのピンを手で直し始める。
その様子をなんとなく目に写しながら、俺はボスザルの言った言葉を思い出し、自分なりに整理してみた。
年は22歳。
ボスザルは高校生じゃないって思ってるみたいだけど、ダブってたりしたら完全には否定出来ない。
なんか深刻そうな物言いだったけど、ボスザルの思い過ごしという可能性もある。
じゃあ仮に高校生じゃなかったとしたら?
素早く簡潔に、あまり目立たないように、俺がキーマンだという確信を得たかった、みたいな事をボスザルは言ってた。
つまり、拉致ったりとか街中で絡んだりとかはダメで、人目につかず、尚且つボスザルが近くで見てる必要性があった、とすれば、学校が一番適切だったわけか。
転校なんて嘘で、こっそり侵入した可能性も大。
こんな生徒がまとまってない学校に紛れ込むなんて、さぞかし簡単だったろう。
その後、オヤジ犬のあのバカげた茶番劇で、俺がキーマンだと証明された。
で、その情報はマダラにも渡り、だからもうここにはいないわけで…。
うーん、じゃあ、やっぱりマダラはチームの人間だったのか。
てことは、キツネかマロンはやっぱり俺を利用しようと企んでる事になる。
………………。
「むっちゃん、どした?」
机に突っ伏す俺を見て、加藤が大丈夫かと続けて声をかけてくる。
しかし微動だにしない俺に諦めたのか、そのうち加藤は俺の髪で遊びだした。
大丈夫なんだろうか、本当に。
こんな事態になって、俺って本当に生きていられるのかな。
護るなんてボスザルは簡単に言うけど、もし多勢に無勢ときたら、実際問題難しいと思うんだ。
怖い…。
もういいじゃないか。
くだらないチーム争いなんか放棄しちゃえばいいじゃないか。
俺が本当に本当に大事なら、とっくにいちぬけたーって言ってるはずなんじゃないのか。
俺を危険に晒してまでナンバーワンになりたいのかよ。
所詮ボスザルも地位や名誉の方が大事ってわけなのか。
…俺は、二番目、なのかな。
「でーきた」
「…そんなこと、ないよな」
うん、そんなことない。
だって、俺の為に既にナンバーワンだった死神を解散させたじゃないか。
「むっちゃんかわいー」
「…信じていーよな」
「けんちゃん先輩に見せにいこー!」
「…俺は、信じる」
ぐいぐいと加藤に腕を引っ張られ、廊下に出る。
まだ俺は自己暗示のようにぶつぶつとぼやき、俯きながら加藤に手を引かれて歩いた。
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