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⑤
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勢いよくドアをあけ、外に飛び出す。
や、やったよ俺!!
そのまま一目散に更なる出口を目指した。
しかし。
「あれ、何でお前が外に出てんの?」
もう本当に運が悪いとしか言いようがない。
目指したその先から、サタンがゆらりと姿を見せた。
その後ろにはお供の獣も二匹。
くそう…。
後もう少しだったのに。
「悪い子にはお仕置きだねぇ」
ニヤリと口の端を吊り上げるその姿に涙腺が崩壊する。
サタンの忠告はまだ脳裏にはっきりと残っていた。
死なない程度に痛めつける。
ハイ死んだ。
本当にありがとうございました。
さっきの部屋に連れ戻され、両腕を二人掛かりで押さえつけられた俺の目にはっきりと三途の川が映し出された。
「ていうかね、お前はもう役立たずになっちゃったんだよねー」
心底不愉快そうにサタンが呟くのを聞いて、俺はだだ漏れにしていた涙を止めその顔を見上げた。
役立たず…?
「でもさ、大事なお兄様の大事な子でしょ、お前は。口だけじゃなくて、本当にお前が窮地に立たされてるって知れば動くんじゃないかなーっていうテスト」
意味の分からない事を連発され、俺の頭がハテナで埋め尽くされる。
ただサタンを凝視するしか出来ない俺は、しかし次の瞬間、本当にこの世の終わりを予感した。
「な、なにする気だ…」
近寄るその気配から逃げようにも、俺の両脇は獣2匹ががっつり固めている。
そのうち1匹が俺の左腕を差し出すように更に強く固定し、俺が暴れないようになのか物凄い力で2匹に制圧された。
奥歯が音を上げる。
恐怖なんて言葉では言い表す事が出来ない程に、俺の全身から血の気が引いていくのがわかった。
「大丈夫。痛くないから」
ニッコリと笑みを向けながら、そう言ってサタンが押さえつけられた俺の前にしゃがみこむ。
その右手には小さな注射器。
何をしようとしているのか、理解したくなかったけど理解出来てしまう俺の頭がパニックに陥った。
「や、やめ…」
「ちょっと誰かいないのー」
恐怖に慄く俺を嘲笑いながら、サタンはそう声を張り上げた。
同時に奥で何やらバタバタと音が聞こえ、恐らく今の今まで薬を探しに慌てていたんであろうさっきの獣が焦るようにして部屋に現れた。
「お前、祐介逃がした罰は後から受けてもらうとして、ホラこれ」
不機嫌そうにそう吐き捨てると、サタンはその獣に携帯を投げ渡した。
「今から俺がする事、それで撮影しろ」
「あ、はい」
「ちゃんと祐介の顔が映るように撮るんだよ」
鋭い眼が俺を再び捕える。
身動きが出来ない俺はどうする事も出来ず、もうただひたすら祈るしか出来なかった。
冗談じゃない。
何で俺が薬なんぞ打たれなきゃならないんだ。
冗談じゃない。
本当にもう頼むからそういうのはやめてくれ。
それならまだボコボコに殴られた方が遥かにマシだ。
「ゼロの頭が、浅間じゃなくなった」
「え…」
俺の腕をそろりと撫でながら、サタンが呟く。
その意味は当然理解できない。
聞き返すように声を漏らせば、表情を消し、サタンは更に続けた。
「弟くんに譲ったらしい。だからもうお前を使ってゼロをどうこうする事は不可能になった。現に尚吾に掛け合ってみたけどね、俺には関係ねぇから好きにしろって言われたよ」
「………」
「でもさ、テストは大事だろ?果たして本当なのかどうか、それを今から確かめる。尚吾が頭になったのが本当だとしても、元ボスの大事な人間を簡単に見捨てる事なんてできるのか」
「あ、やめ…」
その鋭く光る先が、鈍く光る眼光と共に俺の腕にゆっくりと降りてくる。
逃げようとしても逃げられない。
心拍数はこれ以上ないくらい上昇し、けれども俺はその瞬間から目を離す事が出来なかった。
「ね、痛くないでしょ?」
「あ、あ…」
皮膚の内部に消えたその先端。
なくなっていく液体。
本当はもっと声を上げて叫びたいのに、やめろと叫びたいのに。
「あ、あ、…っ、」
あり得ないその光景に、非現実的なその光景に、俺は恐怖で萎縮し、まるで喉に遺物が詰まったように声を出す事が出来なかった。
「ダメじゃん、もっと叫ばないとさ」
溜め息を吐き出すと、ちゃんと撮った?と俺から針を抜き、サタンは立ち上がると獣から携帯を奪いとった。
「ゼロの弱点をなくすために浅間が下りたのだとしても、結果的にそれはお前を更に危険な目にあわせるハメとなった。そこをあの男は理解してるのかな」
解放され、恐怖と混乱に支配されていた俺はずりずりと部屋の壁に背中を押し当て腕を力一杯手で押さえつけた。
打たれた。
打たれた。
薬を──
呼吸が乱れる。
汗が噴き出す。
頭の中は、絶望感でいっぱいだった。
「かわいそうな祐介。尚吾が応じるまで、こうして何度も打ってあげるよ。それまでに来るといいね」
王子様が、と、これ以上ない笑みを俺に向けて、サタンは部屋から出て行った。
俺はそのまま動けず、ただ一点を見詰めて更に腕を強く押さえつける。
「な、んで…っ」
何で俺がこんな目に、何でだ…!!
薬の威力は俺にはよくわからない。
けれど、何度も打たれてしまえばもうそこから抜け出せなくなるという知識くらいはもっている。
もしかしたら、もう手遅れなのかも知れないけど。
真っ暗な部屋の中。
いいようのない怒りと、失望と、そして、何より自分自身への憎悪で、俺の全てはいっぱいになっていた。
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